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新たな世界秩序における新興国市場
2024/08/28

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概要

20世紀後半の世界秩序が覆されようとしています。この変化は新興国市場、特に新興国債券の投資家にとってはポジティブな展開となるはずです。




目次


01 新興国市場の利点

02 グローバル経済の形成

03 新世代の新興国市場

04 地政学を要素に加える

05 今後の機会


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01 新興国市場の利点

新たな世界秩序が形成されつつあり、これは新興国債券市場の投資家にとって、好材料となることが約束されています。この構造転換は地政学の変化によるところもあれば、新興国経済の成熟化によるところもあります。ひとつ言えることは、多くの新興国が次の発展段階に進むことができるほどに進化している、ということでしょう。また、先進諸国の政治的な変化も、新興国市場にとっては有利に働きます。

これらの変革的な要因のうち最初に挙げられるのは、ベルリンの壁崩壊後の影響が、現在でも持続しているということです。つまり、東欧が貿易を開放、中国は市場経済に台頭し、グローバリゼーションのブームを引き起こしました。そして、少なく見積もってみても、グローバリゼーションは終わりを告げていません。しかし、中国がソビエト連邦に代わり、米国主導の西側諸国に対する世界的な対抗軸となった今、新たな地政学的リスクが表面化しつつあります。

その中で、新興国市場の役割が強化されます。貿易関税の賦課など、中国と西側諸国との関係が緊迫しているため、中国はますます他の新興国を製品の輸出先として見るようになるでしょう。また、同様の理由で、欧米から中国への資本流入が減速する可能性が高く、より広範な新興国へと資本が流れることになります。

新興国は原材料と人的資本の両面で豊富な資源を持つため、外国人投資家にとって、その経済は特に興味深いです。

同時に、先進国の経済政策は大きな転換期を迎えています。ここ数十年間、政府は成長を促進するために中央銀行による刺激策を優先し、インフレの目標設定に重点が置かれました。これにより、財政支出には大きな制約が課されました。しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)後、この状況は一変しました。政府支出が主要な政策手段となり、中央銀行の役割は経済を安定させることになりました。政府が、これによって生じる赤字をどのように資金調達するかは、投資の流れ、ひいては自国通貨に影響を与えます。米国は巨額の双子の赤字(経常収支と財政赤字)と外国資本への依存を抱えており、長期的には米ドルが圧力を受けることになるでしょう。これは、新興国の経済や資産にとって広範囲に好影響をもたらします。


02 グローバル経済の形成

先進国市場は、この新たな世界秩序の発展において主要な推進力となるでしょう。先進国全体の拡張的な財政政策が、世界金融危機後に訪れた構造的な停滞を終わらせることになるでしょう。政府が財政支出を行う動機は多岐にわたります。社会的要求に応えなければならないという国内的な圧力に起因するものもあれば、軍事インフラや産業政策といった戦略的分野への支出を通じて中国の台頭に対応するなど、国際競争に打ち勝つ必要性に起因するものもあります。しかし、債務負担は増加しつつあり、高金利の世界で、その債務の返済コストが悪化することで制約が増しています。



この大きな変化の結果、政府は市場の圧力に追い込まれるまで、緊縮財政に戻ることはまずありません。その代わり、政府は経済成長によって債務負担を抑えようとするでしょう。的を絞った政府支出の増加は、より高い設備投資と資源需要を促進する可能性があります。一方で、金利上昇が優勢になるというデメリットもあります。

しかし、この大盤振る舞いの財政が国際資本フローにどのような影響を与えるかは、はっきりしません。多額の債務を抱える政府は、新しい形の金融抑圧を採用するでしょう。政府は優遇措置、法律、マーケティングを通じて、現在、米国に偏って投資されている国内資本を解放しようとするでしょう(図1)。これにより、これまで米国の資産価格の優位性を支えてきた資金流入の逆転を引き起こす可能性があり、最終的には米ドルの強さにも影響を与える可能性があります。これが起これば、新興国市場の資産価格にとって最も変革的な影響をもたらすことになります。新興諸国は、再び活気づく投資と資本支出によって恩恵を受けることになるでしょう。


03 新世代の新興国市場

今日の新興国市場は、以前とは異なり、多くの市場で成熟や秩序が見られます。現在では、ラテンアメリカの債務危機やアジアの通貨危機、ロシアの債務危機のような大規模な混乱を経験する可能性は低いと言えます。実際、いくつかの点では、新興国市場は先進国市場よりも、はるかに責任ある姿勢を持っています。債務を例に挙げると、先進国の債務残高対GDP比率は2000年の70%から現在の126%に上昇しましたが、新興国ではその比率は47%から68%の上昇であり、中国を除くと52%から57%の小幅な上昇にとどまっています(図2)。



それだけでなく、投資家の逃避行動に対して、より脆弱性が低下しています。2008年には、新興国ソブリン債の81%が外貨、主に米ドル建てで発行されました。しかし、2023年にはその割合は44%まで減少しました。現在、新興国ソブリン債の大部分は、現地通貨建てで発行され、国内で資金調達されています。

これは、新興国経済の成熟度が高まっているためです。現在は、国内の投資家が増え、国内資本市場が洗練されてきています。この成熟度は、経済成長と独立した中央銀行による規律、変動為替レート制度、財政規律、公的および私的年金制度の創設、そしてますます堅固な国内機関によって生み出されています。このことは、過去に危機に陥りやすかった国々において特に顕著です。


04 地政学を要素に加える

ここ数十年、中国は主に安価な商品の供給源と見なされてきました。しかし、今では中国は重要な力の中心地として見なされており、ソビエト連邦の崩壊以来存在しなかった、西側に対する対抗軸としての役割を果たしています。これは緊張を引き起こす一方で、機会も生み出しています。



コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)により、欧米各国は、サプライチェーンの多くが中国と結びついていることを認識せざるを得なくなりました。それは同時に、中国が経済的にだけでなく軍事的にもどれほど強力になっていたかという認識をすることにもなりました。先進諸国が中国への依存度を減らそうとする動きは、他の新興国にとっても好都合でした。ラテンアメリカのように、米国のニアショアリング(生産拠点を最終消費地に近いところに移転させる)から恩恵を受けている国々もあります。また、中国企業も一部の生産拠点を海外に移しました。特に東南アジアに移転させることで、貿易障壁を回避する手段としています。

これにより、他のアジア新興諸国への資本流入が増加しました。これは、資本を大量に必要とする大国が投資を独占しなくなっただけでなく、これらの国々で急速な経済成長が進み、中産階級が増えて、その人たちが貯蓄の投資先として求めているからです(図3)。



これらの国々の多くは資源が豊富であり、クリーンエネルギーへの移行に必要な金属や、軍事・技術用途の戦略的鉱物の主要な供給源となっています。そして、これらの資源に対する需要は今後もますます増加するでしょう(図4)。

しかし、おそらくこれらの国々にとって最も重要な資源は、採掘されたり伐採されたりするものではなく、人々です。多くの先進国では、国民の高齢化と人口減少に直面していますが、新興国では、韓国や中国のような例を除き、あまり問題ではありません(図5)。新興国の人々は、単なる安価な労働力などではなく、より大きく教育へ投資することによって、将来の消費とイノベーションに繋がるのです。外国企業はこの資源の価値を認識しています。例えば、グーグル(Google)は、インドを単に低スキルの仕事をアウトソーシングする場所とは見なさず、地元のニーズに応えるサービスを構築することを視野に入れ、給与の幅を広げた雇用を行っています

新興国が資本流入を最大限に活用するためには、インフラの整備が必要であり、これは各国政府が奨励していることです。開発銀行は新興国への投資を競い合っています。例えば、IMF(国際通貨基金)はラテンアメリカ、世界銀行と米国財務省は西アフリカに投資しており、中東の政府系ファンドの活動もますます活発になっています。これらは総じて投資資金を提供するのを助けると同時に、ソブリン・クレジット市場の重要な後ろ盾となり、デフォルトリスクを軽減しています。



05 今後の機会

これらの長期的なトレンドは、複数の段階を経て展開されるでしょう。ある段階では、投資家は新興国市場のソブリン債や社債に、より多くの資金を向けることでリターンを得ることができるかもしれません。他の段階では、デュレーションの延長が有利に働くかもしれませんし、また別の段階では、新興国市場の現地通貨建て債券や、現地通貨への投資を拡大することで、ベンチマーク以上のリターンを得ることができかるかもしれません。

いずれにせよ、新興国債券のファンダメンタルズは、いくつかの点で魅力的です。

まず、利回りが高いことが挙げられますが、その要因の大部分は、無リスク資産と見なされている10年物米国国債の利回りが高いことです。米国のインフレ率が低下し、米連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和を開始すれば、新興国債券の利回りは低下する可能性があります。こうした高い利回りは、投資家にとっては魅力的な投資機会に見えるのです。



同時に、新興国債券、特に現地通貨建て債券の外国人保有比率が低いことや、これらの通貨が著しく過小評価されていることを考えると、投資家にとってリスクとリターンのバランスが良いように思われます。

また、新興国債券はポートフォリオの分散要素として効果を発揮します。新興国債券は、米国債や投資適格社債といった、債券の主要カテゴリーとの相関が低く、また米国株式とも相関していません。同時に、ハードカレンシー建てや現地通貨建てのソブリン債、社債などとの間でも比較的相関が低く、新興国債券のアロケーションの中で分散投資の機会を生み出しています。

これらの要因が組み合わさることで、投資家は投資機会を拡大しています。堅固な投資基盤を持つ国内投資家の存在により、現地通貨建てソブリン債や社債はますます魅力的に見えます。一般的に、規模が大きくシステム的な国や企業の場合、ソブリン債や社債の信用リスクは低下しています。このため、米ドルへの依存度が低くなり、これらの資産は、米国の金利や外部要因による負の影響に対して感応度が低くなります。しかし、この新たな世界秩序に適切に対応するためには、新興市場資産のあらゆる資産クラスに対して柔軟に資金を配分する能力が重要です。

 


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