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主要国国債: 足元の状況を確かめる
2024/10/09

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概要

今後、主要国中央銀行が利下げを行った場合には国債の魅力が高まるはずです。



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■概要

● 2024年7月末から8月にかけて、持続的なディスインフレやキャリートレードの解消、米国労働市場の予想外の鈍化を背景に、米国10年物国債の利回りは大幅に下落しました。これにより市場参加者の関心は、中央銀行の金融緩和計画、特に利下げのペースとターミナルレートに集まっています。

● 8月初旬に発生した株価の大幅な下落は、ディスインフレ環境下で国債がポートフォリオにおいて保全的な役割を果たし得ることを示しました。また、米国国債は米国が予想外の景気後退に陥り金融市場が混乱した場合には、ヘッジとして有効であると考えています。

● 市場参加者は、米国のインフレ圧力よりも、経済の健全性や成長の鈍化懸念をより注視しているようです。これは、中央銀行がメインシナリオよりも積極的な利下げを行う可能性があることを意味します。


ディスインフレな新しい世界

2021年と2022年のインフレ懸念により、金融市場参加者(以下、市場参加者)は最近のディスインフレに慎重になり、主要中央銀行が掲げる2%インフレ目標の実現可能性や妥当性を疑問視する声も聞かれるようになりました。2023年下半期にインフレ率が急落したことで景気後退懸念がおこり、2023年末の米国10年物国債利回りは3.8%へと低下しました(図表1)。2024年に入ると、インフレ率は予想外にも上昇したため、利回りの下落トレンドは反転し、米国10年物国債利回りは4月には4.7%まで上昇しました。

米国国債利回りがインフレの影響を受けやすいことを示す例として、6月の消費者物価指数が事前予想よりも低かったことが、米国国債の上昇を引き起こし、他の主要国国債もそれに続きました。

この新たなディスインフレの世界は、2つの主要なパラダイムシフトをもたらしたと考えています。まず、ディスインフレにより、長期国債、特に米国国債がポートフォリオの保全的な役割を取り戻しました。2024年7月末から8月にかけて、米国株式が大幅下落した際には、米国10年物国債の価格が上昇しました(図表2)。そして、インフレ率の低下により、米連邦準備制度理事会(FRB)や市場参加者は米国労働市場の状況に注意を向けるようになりました。



金融市場参加者の関心は、より積極的な利下げへと移っている

このような状況下では、中央銀行がより積極的な利下げを行う可能性が高まっていますが、予想ターミナルレートが急低下しているところを見ると、これは市場参加者によって十分に織り込まれていると言えます。(図表3)。

スイス国立銀行は、2024年3月に主要中央銀行の中で最初に利下げを行いました。スイスのインフレ率が予想を上回るほど急激に低下し、6月以降スイスフランが強くなり、輸入価格が下がったことから、市場参加者は本稿執筆時点でスイスの予想ターミナルレートを0.5%に引き下げていました。

また、イングランド銀行と欧州中央銀行(ECB)は、それぞれ6月と8月に、利下げを開始しました。

米国に目を向けると、FRBがFF金利を予想中立金利の3%よりも低い、2.85%まで引き下げる可能性がある、と市場参加者は予想しています。 中立金利は金融政策が引き締め的でも緩和的でもない状態を意味するため、市場参加者はFRBが景気を刺激する必要があると見ているのでしょう。



米国の大統領選挙がターミナルレートに与える影響

今年11月に行われる米国大統領選挙の結果は、財政支出とインフレに影響を与える可能性があり、そうなればターミナルレートにも影響を及ぼすでしょう。

どのような選挙結果になったとしても、米国の財政赤字は増加すると予想されますが、共和党が大統領選挙と議会選挙の両方で勝利する「クリーンスイープ」の場合、赤字は急激な増加が予想されます。ドナルド・トランプ氏は法人税や所得税の減税期限を撤廃し、恒久的な制度にすると述べていますが、これらの減税分が増加した輸入関税で十分にカバーされる可能性は低いでしょう(図表4)。一方、カマラ・ハリス氏は法人税を引き上げ、所得税減税を低所得層と中間所得層のみに限定して延長すると発言していますが、もし上院、下院のどちらかで共和党が多数を占めれば、これを達成することは難しいでしょう。

ドナルド・トランプ氏が選出された場合には、財政支出が経済成長を刺激するかもしれませんが、米連邦準備制度理事会(FRB)にとって最も重要な問題は、関税とそれらがインフレに与える影響です。そのため、カマラ・ハリス氏が勝利した場合よりも、トランプ氏が勝利した場合の方が、ターミナルレートが高くなると予想しています。もしトランプ氏が11月に大統領へ選出され、彼が言及した規模の関税(中国からの輸入品に60%、他の国からの輸入品に10~20%)を実施する場合、ターミナルレートは4%に近くなる可能性があります。そのような関税の影響だけを考えても、市場参加者が予想ターミナルレートを上方修正し、景気後退がない限りは、2025年の間に米国10年物国債利回りが再び4%を上回る可能性があるとみています。

ハリス氏が勝利した場合、FRBは政策金利を中立水準と目される3%付近まで引き下げると予想されますが、緩やかな景気後退があれば、さらに引き下げる可能性もあります。現時点では、11月の選挙でハリス氏がわずかに有利な見通しですが、選挙戦は接戦の状態です。

米国大統領選シナリオにおける米国2年物国債利回りは、いずれの場合においても、米国イールドカーブはスティープ化し、10年物国債と2年物国債のイールドカーブのスロープは再びプラス領域に移動することが予想されます。

また、市場参加者は、インフレ圧力よりも、製造業と労働市場の減速を背景にした経済の健全性や成長の鈍化懸念を、より注視しているようです。これは、各国の中央銀行が基本シナリオよりも積極的な利下げを行う可能性があることを意味します(図表4)。



 

*本稿は2024年9月11日時点の情報を元に執筆されています。

 


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