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- 米大統領選:それぞれの選挙公約から金融市場への影響を考える
これまでのところ、世界の金融市場は米大統領選について、比較的楽観的な見方を示してきました。世界経済の先行きを巡る懸念や米国の利下げ開始、中国の景気浮揚策の発表等に関心が集まっていたためだと思われます。投票日が近づく中、選挙結果が個別資産に及ぼす影響に注目することは、投資成果の向上をもたらす可能性があると考えます。
トランプ前大統領の勝利は、米国株式の追い風となる一方で、米国国債には好材料となりそうにありません。一方、ハリス副大統領の勝利は、新興国市場の追い風となる一方で、米ドルにとっては、さほどの好材料にはならないように思われます。
もっとも、状況を複雑にしているのは、どちらの候補が勝利するかということだけでなく、どちらの政党が議会を支配するかも重要だということです。特定の分野には明確で強力な影響が見られる一方で、過去の例が示しているのは、市場全体への影響は軽微に留まり、政治動向よりもファンダメンタルズが市場の方向性を決める傾向があるということです。
二人の候補者のどちらが勝利しても、米国経済はソフトランディングに向けた道を歩んでいる可能性があります。
選挙結果の影響は、国債、米国以外の株式市場、セクター、運用スタイルなどにおいて、特に、選挙後3ヵ月から6ヵ月の間に顕著に現れると考えています。
1972年以降の米大統領選結果を分析しても、どちらの政党の候補者が勝利すれば株式市場が上昇する、という証拠は見当たりません。
一般的に、株式市場には大統領選後に小幅上昇するという傾向が見られます。もっとも、選挙のない年にも、通常、10~12月期には季節的要因により上昇相場が展開されるため、市場の上昇要因を見極めるのは容易ではありません。
顕著な例外は2016年の場合です。大統領選後から翌2017年1月半ばにかけて、トランプ氏が重要公約に掲げた石油掘削関連株式やメキシコ・ペソに明確な影響が確認され、その後、年末にかけては、「減税・雇用法(トランプ減税)」を好感して市場全体が上昇しました。
もっとも、トランプ氏が勝利したとしても、今回はそのような状況が再現される見込みは小さいと思われます。二つの政党間の政策に大きな違いが見られず、特に、財政の拡張余地は、8年前よりも遥かに限定的だからです。
従って、結果の予測は困難で、「ハリス氏の勝利とねじれ議会(ほぼ現状維持)」を予測するシナリオから、「トランプ氏の勝利と下院での共和党の圧勝、許容範囲を超えた過激な政策運営」を予測するシナリオまで、4つの予測シナリオが想定されるものの、市場の反応は穏やかなものに留まるものとみています。
賭博市場のオッズ(賭け率)も、4つのシナリオに示された予測とほぼ変わりません。
市場は、当然、選挙結果の影響を予測しようと試みており、選挙を控えた動きも確認されます。資産価格と選挙結果予測との相関は確かに強まっていますが、ピクテが策定したトランプ・トレード・コンポジット指数は、市場のオッズとほぼ同様の結果を示しています1。
このことは、投資家が、どちらの候補者が勝利するかについて積極的な見方をしているのではなく、むしろ、世論調査の結果や市場の予測を勘案して、ポートフォリオを微調整しているに過ぎないことを示唆します。
トランプ氏の勝利をもっとも明確に見込んでいるのは、金の取引です。同氏の貿易に対する過激でドルの武器化を厭わない姿勢を勘案すると、新興国の中央銀行による準備資産分散化のための金需要は継続が予想されます。
輸出支援のためのドル安政策が公約に盛り込まれているものの、トランプ氏の勝利は、ドルの追い風になると考えます。政策の変更による企業収益への影響は軽微に留まり、デフォルト・サイクル(債務不履行循環)に影響が及ぶ可能性も極めて小さいと思われるため、クレジット市場は選挙結果の影響を比較的受けにくいとみています。
しかし、それ以上に、市場の示唆には微妙なニュアンスが含まれており、4つの予測結果は、詳細な検証に値すると考えます。
穏やかなアメリカ例外主義
トランプ氏の勝利とねじれ議会を予測するシナリオは、米国の経済成長にとっては、ほぼ中立的で、金融市場にはわずかにプラスです。同氏が掲げる「米国第一(アメリカ・ファースト)」主義は、特に中国に対する保護主義関税が主要政策になることを示唆しています。もっとも、共和党が議会の多数を制することが出来なければ、大型の財政支出は実行が困難です。通商政策と移民対策の強化を掲げるポリシーミックスは、米国経済を刺激する効果が小さい一方でインフレをもたらす可能性が高く、従って、債券には、弱い逆風になると考えます。当シナリオ下では、法人税率の引き下げと、内需型企業に有利な各種施策の恩恵を特に大きく受けることが期待される米国株式、とりわけ、小型株が有利になると思われます。
新興国株式のほとんどは苦戦を強いられるとみていますが、対中規制の影響を受けにくいインド等の内需型成長株については、相対的に良好なリターンが期待されます。
許容範囲を超えた過激な政策運営
トランプ氏の勝利と議会における共和党の支配を予測するシナリオでは、同氏がより過激な施策を実行する力を持つことが想定されます。超党派で構成する「責任ある連邦予算委員会」によれば、連邦債務はハリス氏が勝利した場合の約2倍に急増しますが、この他、10%の一律関税を含む厳しい関税が課される可能性も考えられます。こうした状況は、米国国債の強い逆風になると考えます。トランプ氏は、再生可能エネルギーに反対し、国内の石油・ガス生産を強力に支援しているものの、旺盛な需要が長期間維持されるならば、国内で供給が増えても、価格が大幅に下落する可能性は低いと考えます。以上を勘案すると、インフレ率が上昇し、社債スプレッド(国債との利回り格差)が拡大し、イールドカーブ(利回り曲線)は、スティープ化(右肩上がりの形状)することが予想されます。その結果、米国株式と米ドルには追い風が吹く一方で、米国株式以外の株式ならびに債券、とりわけ、新興国債券には逆風が吹く状況が予想されます。株式の業種セクターでは、利回りの上昇と規制緩和の可能性の恩恵を享受することが予想される銀行セクターが際立って明確な勝者となりそうです。
ほぼ現状維持
ハリス氏の勝利とねじれ議会を予測するシナリオでは、現行のポリシーミックスと優先課題がほぼ維持されることになりそうです。経済成長とインフレには中立で、トランプ氏が勝利した場合ほどではないにしても、財政赤字が拡大する可能性は大きいと考えます。半導体や再生可能エネルギー等、産業政策の影響が大きい業界の関係者は、安堵の息をつくものと思われます。ハリス氏はトランプ氏ほどの保護貿易論者ではなく、低炭素経済を擁護しています。当シナリオの恩恵が期待されるのは、日本株式、新興国株式、再生可能エネルギー関連資産、自動車、インフラ関連セクター、そして米ドルの売りです。
条件反射的なリスク回避
ハリス氏の勝利と議会における民主党の支配を予測するシナリオは、リスクオフの局面につながる公算が大きいと考えます。ハリス氏の公約の一部である法人税率の引き上げと規制強化への関与は、最終的にはファンダメンタルズから明らかになるにしても、少なくとも当初は、市場の逆風と受け止められることが予想されます。財政赤字は若干拡大するもののインフレに大きな影響が及ぶ可能性は低いと思われ、その結果、債券には穏やかな追い風が吹く一方で、米国株式やその他のリスク資産には逆風となることが予想されます。スイス株式、中国株式、特に前者についてはディフェンシブ銘柄、後者については保護貿易政策の影響が少ない銘柄に対して有利に働くと思われます。また、米国株式の売りも有効だと考えます。
[1]ラッセル 2000指数(単純平均)、S&P株価指数(均等加重)、米国銀行指数、グローバル金融指数、米国医薬品指数、米国ディフェンシブ指数、ゴッドブレスアメリカETF、ESGリーダーズETF, 米国石油・ガス関連機器指数、グローバル・エネルギー指数、米国航空宇宙・防衛指数のショート、およびグローバル資本財・サービス指数、いずれの指数も既存のファンダメンタルズ要因の影響を除去するためすべてトレンドを除去。
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