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貴金属市場の先行きはFRBの政策次第か?
2022/08/04

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概要

●貴金属価格は、米連邦準備制度理事会(FRB)の一段とタカ派的な姿勢や金利上昇およびドル高を受けて、急落しています。
●短期的には、米国の景気後退(リセッション)入りを巡る懸念が強まる中、貴金属セクターでは金が最も強い耐性を示しています。
●中長期的には、(環境に配慮した)「グリーン・エネルギー」への構造転換が、銀やプラチナの工業用需要を増す一方で、パラジウムには逆風になると考えます。



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金:FRBのタカ派姿勢の後退を待つ

金価格に大きな影響を及ぼすのは投資需要ですが、投資需要を左右するのは、米ドルの減価、インフレの高進、経済の不確実性等に対するヘッジ手段となる金の魅力です。一方、投資需要は、利息を生まない金を保有するための機会費用からも大きな影響を受けることには留意が必要です。

 FRBの足元のスタンスは(リセッション懸念を一蹴するほど)強硬で、ドルの強い支援要因となっています。こうした状況と、機会費用が高止まりする状況が相俟って、金の投資需要は、高インフレ局面にありながら、旺盛とはいえません。FRBがリセッション懸念に対する配慮を強める姿勢に転じるには、米国のインフレ率がピークを付け、米国経済の先行きが著しく悪化していることを示唆する明確な兆しが確認される必要があると考えます。

 米国経済の減速懸念を受けてFRBがタカ派姿勢を弱めれば、金利に下押し圧力が掛かる公算が大きいと考えますが、そうした環境は、ドルの下支え効果を弱めることになります。FRBが経済成長重視の姿勢に回帰すれば、リスク選好意欲が強まる可能性がある一方で、ウクライナ紛争に端を発した地政学リスクへの懸念が長期化し、世界的な不確実性に対する有力なヘッジ手段として金が選好される状況が続く可能性も考えられます。

 とはいえ、6月の米雇用統計やインフレ指標がFRBのタカ派姿勢の後退をもたらさないことは明らかで、(金融市場には、今後複数回の大幅利上げの前倒しが織り込まれていることから、)短期的には、金に対する下押し圧力は変わらないと考えます。ピクテの基本シナリオは、FRBが9月にも慎重な姿勢に転じることを前提としています。また、10~12月期は、季節的に宝飾需要が増す時期にあたり、金には良好な環境が形成されることが予想されます。ただし、金の先物市場が示唆する投資家心理は、高値を付けた時点から著しく悪化しており、特に、今後数週間については、軟調な展開が予想されます。

 

銀:工業用需要の回復待ち

 短期的な観点で懸念されるのは、金の投資需要、銀の投資需要ともに低迷していることですが、違いは、銀の投資需要の落ち込みが金の場合より遥かに明らかなことです。市場は今後12ヵ月の米国のリセッション入りを従来以上に織り込みつつあり、銀の投資需要が上向く公算は極めて小さいと考えます。また、電気機器等に多く使われる銅の価格が軟調に推移していることも、こうした見方を裏付けると考えます。

「グリーン・エネルギー」への移行が銀需要を増す公算が大きいとの見方は、銀が電池や太陽光パネルに使われることから正当化されると考えます。また、過去の推移に基づくと、銀は、金に対して、割安な水準に留まっているように思われます(図表2をご参照下さい)。従って、中長期的には、銀が金よりも有望だと考えます。

図表2:銀価格に対する金価格の倍率(金銀比価)

※2022年7月15日時点
出所:ピクテ・グループ、リフィニティブ an LSEG business

 

パラジウム:ロシアの供給を巡る不確実性

パラジウム価格は値動きの荒い展開が予想されますが、これは、(世界の全生産量の約40%を生産する)ロシアの供給を巡る不確実性が極めて高いからです。中長期的には、西側諸国によるロシアへの経済制裁が世界全体の供給量を下押すことによって鉱山活動に影響が及ぶ可能性があり、ロシアの減産も予想されます。

 パラジウム需要は自動車セクターの影響を最も大きく受けますが、自動車需要は、中国経済が再開したことや、数四半期間、入手が困難を極めたことから、一段の拡大が予想されます。もっとも、景気減速局面で労働市場が悪化する可能性や、自動車市場における電気自動車のシェアの拡大がパラジウムに対する工業需要を大きく下押すことにも留意が必要です。また、パラジウムはプラチナよりも高価であることやロシアの供給を巡る不確実性が極めて高いことから、自動車部品にはパラジウムよりもプラチナが多く使われると考えます。

 

プラチナ:自動車需要はパラジウムよりも良好

プラチナは、パラジウムと同様、自動車需要の回復の恩恵を受ける公算が大きいと考えますが、宝飾需要が需要全体の25%を占める等、パラジウムに比べて需要が多岐にわたることには留意が必要です。

 プラチナの主な生産国は南アフリカ(南ア)で、供給面でのロシア依存は高くありません。ただし、南アではインフレ高進を受けてプラチナ鉱山での賃金交渉が続いており、下期には従業員のストライキも予想されるため、一時的に供給への影響が出る可能性は否めません。プラチナは、自動車市場における電気自動車のシェア拡大の影響をさほど受けないため、向こう数年については、パラジウムよりも先行きが明るいと考えます。また、「グリーン・エネルギー」への転換の過程で、燃料電池(FC)セルの触媒として大きな役割を果たすことも期待されます。

 

 


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