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2022年に注目すべき7つのトレンド

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今年以降に注目すべき、科学・テクノロジー・サステナビリティ分野における主要なトレンドについてご紹介します。



1.食料安全保障への取り組み

最近のサプライチェーンの混乱や、それに伴いスーパーマーケットで商品が品薄・欠品となったことを受けて、食料安全保障に関心が集まっています。気候変動の中、増え続ける世界の人口に食料を供給するには、先進農業技術と物流の改善が鍵となります。

まず第一に、より多くの食品を地産地消することが求められています。これには、より安定した供給の確保や廃棄物、カーボン・フットプリント(生産から消費/廃棄までの各過程で排出された温室効果ガスを二酸化炭素の排出量に換算したもの)の削減、トレーサビリティー(生産から消費/廃棄までの流通経路を追跡可能な状態にすること)の向上といった様々なメリットがあります。また、淡水や耕作地など、減少しつつある資源への負担軽減にもつながります。屋内型の垂直農法は大きな成長分野で、耕作地が少なく、気候条件が厳しい地域でも、高品質な地元食材を提供できる可能性があります。例えば、垂直農法を手がけるKalera社は、シンガポールで新しいメガファーム(大規模経営を行う農業法人)を立ち上げる予定です。このメガファームでは、2030年までに国民の栄養必要量の30%を賄う(現在は約10%です)という国の計画の一環として、年間約50万kgの葉物野菜の栽培を目指しています。

伝統的な農場も、最先端科学を取り入れ、環境に合わせて農作物を調整したり、栄養価を高めたりすることができるようになってきました。一方、ブロックチェーン技術の利用は、作物の収穫量を増やし、サプライチェーンを効率化するだけでなく、私たちの食べ物がどこから来たのかという透明性を高めることにもつながります。フランスの大手小売企業であるCarrefour社は、この分野の先駆者の一つであり、今年中に約300の生鮮食品にブロックチェーン技術の使用を拡大し、農場から店舗までの食品の移動を追跡することを目指しています。

また、消費者直送の食品サービスを始め、ほぼありとあらゆる新世代の食料生産・物流モデルへの需要が高まっており、複雑なグローバルサプライチェーンの短縮や、食品の腐敗・汚染リスクの低減が期待されています。



“より多くの食品を地産地消することが求められています。これには、より安定した供給の確保や廃棄物、カーボン・フットプリントの削減、トレーサビリティーの向上といった様々なメリットがあります。”



2.木を再考する

木材は人類が最初に手に入れた素材の一つで、1万年以上も前から建築に使われてきました。そして今、木材はそのサステナビリティ(持続可能性)の観点から、新たな命を吹き込まれようとしています。例えば、パリ市は、2024年のオリンピックに向けて建設される8階以下の建物は、全て木造建築にすることを義務付けています。また、フランス全体では、今年からすべての公共建築物に木材やその他の自然素材を50%以上使用することが義務付けられる予定です。「欧州グリーン・ディール」や、その他のサステナビリティに焦点を当てた新型コロナ禍からの復興イニシアチブは、こうした動きを加速させる可能性があります。同時に炭素税の導入は、木材の価格競争力の引き上げにつながるでしょう。

木材には、すでに多くの魅力があります。木材は耐火性(難燃性)が強く、火災に対して最高2時間程度は耐えることができます。また、木材はゆっくりと均一なペースで炭化・燃焼する一方、鉄などの金属は、一定の温度に達すると急速かつ予測不可能な形で溶解し、突然、崩壊してしまう可能性があります。

それと同時に、テクノロジーもまた進歩しています。従来の木造建築は、一戸建てや小規模な集合住宅に限られていましたが、今では中層ビルはもとより、高層ビルでも、一本の丸太から切り出した板を接着して作る木質パネル建材であるCLT(Cross-Laminated Timber、直交集成板)を使って、ほぼすべてを木造で作ることができるようになりました。優れた寸法安定性と強度を持つCLTは、プレハブ工法において巨大なフローリングの構造物などに使用され、建設現場でより早く組み立てることができるため、コストや二酸化炭素排出量を削減することも可能です。また、木材は軽量でありながら、他の建築材料と同等の強度を持ち、環境への影響も大幅に軽減することができます。

CLTの市場は、2016年の6億7,000万米ドルから、2025年には世界全体で23億米ドルにまで拡大すると予想されています1

また、木材の利用価値は建築だけでなく、包装材、繊維製品、食品成分、衛生用品などにも広がります。さらに、木材は素材としてだけでなく、炭素の貯蔵にも不可欠であり、その価値はますます高まっています。


3.蓄電池ブーム

世界は、より持続可能なエネルギーや電力の供給源へとシフトしています。それは、電気自動車の動力源や再生可能エネルギーの蓄電技術など、より多くの蓄電池(繰り返し使用可能な充電式電池)が必要になることを意味しています。

電気自動車の普及率は、2030年には世界全体で50%(欧州では79%)に達すると予測されています2。これだけの台数の電気自動車を動かすためには、現在の25倍にあたる約4,000GWHのリチウム電池が必要になります3

BlombergNEF社の最新の分析によると、大規模の蓄電池関連市場は、2030年までに20倍に拡大すると予想されています。米国、中国、インド、オーストラリア、ドイツ、英国、日本など、各国の大掛かりな気候変動への取り組みや政府の支援政策を背景に、世界中で増加する風力発電や太陽光発電を円滑に進めるためには、この市場の拡大は必要不可欠と考えられます。

また、住宅や商業施設向けの太陽光パネルや蓄電システムの市場拡大を支えるためにも、蓄電池が必要です。

このように大きな需要が見込まれる中、技術的には、蓄電池の小型化、軽量化、低コスト化に加えて、リチウムからマグネシウムや酸素などの他の素材への移行の可能性にも注目が集まっています。このような研究は、リチウム価格の上昇により、今後新たな動きを見せる可能性があります。




4.サイバーリスク

パンデミックをきっかけに、世界中で働き方が見直され、多くの人が少なくともある程度の時間はリモート(会社から離れた場所)で働くようになっています。このことは、クラウドサービスへの投資の増加や、それに伴うデータセンターの増設など、デジタルの世界にビジネスチャンスをもたらしています。その一方で、サイバーセキュリティをはじめとする様々な課題も生じています。

クラウド・コンピューティング・アーキテクチャへの移行が加速する中、クラウド・サーバへのユーザーのアクセスを制御するためにゼロトラスト・セキュリティ・アーキテクチャ(ゼロトラスト=「信頼しない」、接続元を問わず、毎回認証・検証するという概念に基づいたセキュリティモデル)を採用する企業が増えており、二段階認証や生体認証の利用が拡大するでしょう。一方、VPN(仮想専用通信網)は、サイバー攻撃によってその脆弱性が明らかになったため、段階的に廃止される可能性が高いと考えられます。また、業界アナリストは、機械学習を利用してビデオ通話や音声通話で上司や同僚になりすます、いわゆる「ディープフェイク(人工知能技術による人物画像合成)」の増加を懸念しています。

 

5.メタバースでの生活

空間コンピューティングは、すでにバーチャルホームアシスタントや配車サービスアプリを実現しています。また、ゲームのプレーヤーがリビングルームにゲームのキャラクターを呼び出したり、買い物客がデジタル更衣室で服を試着したりすることもできます。次に、私たちの世界に重なる豊かな3次元のデジタルワールドで、アバター(ゲームやネットなどにおける自分の分身)として仕事や買い物をしたり、交流したりすることを想像してみてください。そこには、現実世界とデジタル世界が、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)を介して一体となり、臨場感と没入感をもたらす仮想共有空間、すなわちメタバースの世界があなたを待っていることでしょう。

長い間、不便なヘッドセット、接続性の悪さ、適切なコンテンツの不足などが、これらのテクノロジーの発展を妨げていました。しかし、5Gモバイルブロードバンドとスマートフォンの進歩により、その状況は変わりつつあります。同時に、パンデミックの影響で、一般の人々はオンラインでの交流に前向きになっています。このコンセプトは、特にZ世代(1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代で、現在、世界人口の3分の1を占める)の間で強く支持されています。

大手ハイテク企業も注目しています。Microsoft社は、ゲームソフト「Call of Duty」のメーカーであるActivation Blizzard社の買収計画を発表し、「メタバース・プラットフォームの開発において重要な役割を果たす」と述べています。また、Facebookの親会社は「Meta」という社名に変更しました。ブルームバーグの調査によると、世界のメタバース関連市場は、2020年代半ばまでに約8,000億米ドルに成長する可能性があります。そのためには、ハードウェア(VR用ヘッドセットなど)、ソフトウェア(ショッピング、ソーシャル、教育、仕事向けなど)、クラウドの容量、インフラ(帯域幅の拡張やレイテンシ(通信の遅延時間)の低減といったネットワークの改善)などが必要になります。

 

6.「診断をお願いします。」

新型コロナウイルス感染症の大流行を受けて、医療における診断の分野も注目されています。嗅覚と味覚の喪失は、ウイルス感染の重要な兆候であることがすぐに判明しました。しかし、ここで重要な点は、その発見が医師や疫学者、研究所の調査員によってではなく、コンピューターによってもたらされたことです。コンピューターがアプリ「ZOE Covid Study」を介して何百万人もの人々からデータを収集し、解析したのです。

そしてこれは、ほんの片鱗に過ぎません。診断における人口知能(AI)の可能性は、パンデミックの領域をはるかに超えるものです。AIは何千枚ものスキャン画像を見て、経験豊富な人間の放射線技師に匹敵する精度で乳がんを識別できるようになったのです。このような技術は、医師が不足している、または不在の地域、特に遠隔地や発展途上国での診断の可能性も広げることができます。

これには大きな意義があります。なぜなら、早期診断により、早くから治療を開始できるため、患者の予後(病状の見通し)が良くなり、病気が進行するリスクを減らすことができるからです。高齢化社会と厳しい予算に直面している各国政府は、このようなメリットを認識し、それに応じた投資を行うようになってきています。例えば英国では、今年、公的な医療保険制度であるNHS(National Health Service、国民保健サービス)に2億4,800万ポンドを割り当て、診断テスト、検査、スキャンなどの技術に投資しています。

 

7.PFAS汚染

PFAS(パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物)は、魔法のように便利な有機フッ素化合物で、焦げつき防止加工が施されたフライパン、電子レンジ用ポップコーンの袋、デンタルフロス、汚れや水に強い布地、泡消火薬剤、廃水処理システムなど、数々の家庭用品や工業製品に使用されています。人気の理由の一つは、その耐久性にあります。しかし、それが最大の欠点でもあり、環境問題に敏感な世界はそのことに気付きつつあります。PFASは決して分解されないのです。

各国政府はこの化学物質を取り締まり始めています。そのためには、既存の汚染を除去すること(活性炭などで対応可能)と、PFASの代替となる環境に優しい物質を開発することが重要になります。後者の代替品の開発については、EUでは来年から約200種類のPFASが禁止されることになっており、メーカーはこの規制に対応しなければならないため、喫緊の課題となっています。例えば、食品包装業界では現在、竹、ヤシの葉、クレイコーティング剤などを使った実験が行われています。

 

[1] Transparency Market Research

[2] UBS Q-Series, “EVs shifting into overdrive” (March 2021)

[3] Bloomberg New Energy Finance




本ページは2022年2月にピクテ・アセット・マネジメントが作成した記事をピクテ投信投資顧問株式会社が翻訳・編集したものです。




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