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新型コロナ 第4波のリスク
市川 眞一
2021/03/30

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概要

政府は、3月21日をもって首都圏1都3県に発出されていた新型インフルエンザ等特措法に基づく緊急事態を解除した。しかし、新型コロナ感染者は全国的に漸増傾向にあり、入院を要する患者数も底打ちの兆候を示している。解除の判断で重視されたのは医療供給体制だ。一時は90%を超えていた1都3県の重症者向け病床使用率は、足下、20%台へと低下した。また、今通常国会で特措法及び感染症法が改正され、都道府県知事は営業時間短縮などの協力要請に従わない事業者に対し「命令」を出すことが可能となったが、大多数の企業、個人に対して強制力のある措置が採れるわけではない。自粛疲れで繁華街の人出が増加するなど、緊急事態が形骸化する懸念も指摘されていた。今後の焦点はワクチン接種となるが、高齢者、基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者を除く一般国民への接種が本格化するのは、今秋以降になると見られる。早い段階で感染第4波となれば、菅義偉政権への批判が強まるだろう。また、新型コロナを契機として、リモート化が定着する可能性は強い。それによる社会・経済の構造的変化は、都心部の不動産市況に長期的な影響を与えるのではないか。



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首都圏1都3県の緊急事態が解除された。もっとも、全国レベルでは新たな新型コロナの感染者は漸増傾向だ。また、1都3県においても3月以降は横ばいとなっている。それでも政府が解除を判断したのは、経済へのマイナスの影響と共に、緊急事態の効果が薄れたことが要因の1つだろう。見切り発車の感は否めず、第4波のリスクに対する備えがあるわけではないようだ。

 

感染者の増加傾向が続く場合、タイムラグを経て入院を要する患者数、そして重症者数の増加となる。3月に入って以降、全国の入院患者数はリバウンドの兆候を示し始めた。また、重症者数も下げ止まりつつある。政府は非常に微妙なタイミングで1都3県の緊急事態を解除したと言えるのではないか。それだけに、感染が拡大すれば、菅政権への批判が強まるだろう。

 

今年1月27日、1都3県の新型コロナ向け病床使用率は68.6%、特に重症者向け病床の使用率は91.9%に達し、医療崩壊を招きかねない水準だった。それが、3月17日の時点では病床使用率28.9%、重症者向けだと23.1%へ低下している。この医療供給体制の逼迫状態の緩和が、政府の緊急事態解除の判断に大きな影響を与えたと言えるだろう。

 

足下、医療供給体制の逼迫は一段落したものの、第4波のリスクに対して備えが十分とは言えない。例えば1都3県の場合、1回目の緊急事態が解除された直後の昨年5月末時点で6,067床だった新型コロナ向け病床数は、今年2月末でも9,025床に留まる。重症者向けも631床から1,428床への増加に過ぎない。依然として綱渡りの状況が続いているようだ。

 

厚生労働省によれば、医療従事者の接種が開始されたワクチンは、承認されたファイザー製に加え、申請が既に行われたアストラゼネカ、モデルナ製を加えると、契約ベースでは日本の人口を超える1億5,700万人分が確保された。日本国内で開発中のワクチンについては、いずれも最終承認申請が2022年以降になる見込みで、当面はこの3社製の接種が進められる。

 

医療従事者に次いで65歳以上の高齢者、そして基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者が順次ワクチン接種の対象となる。厚労省はその総計を約5千万人としており、現在のワクチン確保の計画からすると、極めて順調に接種が進んでも一巡には7月末頃まで掛かるのではないか。それ以外の健常者への接種が本格化するのは、今秋以降になる可能性が強い。

 

Googleが提供しているデータによれば、東京都内における人の出入りは公共交通機関、小売店・娯楽施設などにおいて今年2月頃から緩やかに増えつつある。ただし、平時と比べれば依然として少ない。新型コロナが収束したとしても、リモートワークの定着など社会・経済の構造変化により、都心部における人の集中度合いは完全には回復しないだろう。

 

企業は、新型コロナ禍を契機として、労働管理を時間からパフォーマンスに変更すると共に、リモート化によってオフィスの縮小などコストの削減に努めている。固より全ての職種に適応できる分けでないが、この流れは定着する可能性が強い。その結果、当面、都心部の不動産需給は緩和することが予想され、需要の回復には価格(賃貸料)の下落が求められるだろう。

 

政府は1都3県の緊急事態を解除したが、見切り発車の感は否めず、感染第4波の可能性は低くない。新型コロナの根本的解決策であるワクチンに関しては、一般健常者への接種本格化が今秋以降となる見込みで、次の感染拡大リスクの抑止力にはならないだろう。見切り発車を決断した菅義偉首相は、大きな政治的リスクを背負ったと言えるのではないか。一方、新型コロナ禍を契機とした社会・経済の構造変化は着実に進んでいる。一部の企業・職種においてはリモート化を採用、企業はコストの削減を強化する見込みだ。その結果、当面、都心部におけるオフィスや商業施設の需要が低下、価格(賃料)の値下がり傾向が続くと見られる。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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