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軟調な日本株の裏に好調な中国株
田中 純平
2024/06/03

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概要

米国株と比較して日本株が足元で出遅れている理由は、日本株固有の要因だけでなく、中国株の反発という相対的なパフォーマンスの変化も挙げられる。グローバルに投資を行う機関投資家が参照するMSCIの株価指数を見ると、日本株指数と中国株指数は真逆に動いていることが分かる。



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日本株と中国株は正反対の動き

これまで好調なパフォーマンスを示していた日本株に変調の兆しが表れている。主にグローバルに投資を行う機関投資家が参照するMSCI日本株指数(米ドル建て配当込み、以下同じ)は、今年3月22日につけた高値をいまだ更新できずにいる。一方、これまでMSCI日本株指数との連動性が比較的高かったMSCI米国株指数は、今年5月21日に最高値を更新したばかりだ。なぜ日本株は足元で出遅れているのだろうか?その要因の1つとして挙げられるのが中国株の復調だ。

MSCI日本株指数とMSCI中国株指数を2021年12月末時点で指数化したチャートを見て頂きたい(図表1)。

この2つの株価指数は21年12月末から23年1月ごろまでは概ね同じ様な値動きだったが、23年2月以降は正反対の動きを示すようになった。問題はそのトレンド変化だ。23年2月から24年3月までの「日本株上昇、中国株下落」というトレンドから、今年4月以降は「日本株下落、中国株上昇」という真逆のトレンドへ転換したのだ。

このトレンドはETF(上場投資信託)の資金フローからも確認できる。米国上場の主な日本株ETFと中国株ETFの資金流出入の状況を見ると、中国株ETFでは24年4月29日~5月3日の週から資金流出傾向から資金流入傾向へ転じた一方、日本株ETFでは24年5月13日~17日の週から資金流入傾向から資金流出傾向へ転じた(図表2)。

反転のきっかけは何だったのか?

反転のきっかけとして挙げられるのは①「日中金融政策の方向感」、②「中国不動産市場のテコ入れ策」、そして③「株価バリュエーションの違い」の3点だ。

①「日中金融政策の方向感」は、日中の10年国債利回りの推移を見れば明らかだ(図表3)。

日本では日銀が追加利上げや国債買い入れ減額など、金融政策の正常化を進めるとの観測が高まっており、日本の10年国債利回りは足元で1%台に達している。反対に中国では中国人民銀行が事実上の政策金利である最優遇貸出金利がこれまで段階的に引き下げられており、中国の10年国債利回りは低下基調だ(一般的に長期金利の低下は株式市場にとってプラス材料になりうる)。

②「中国不動産市場のテコ入れ策」は5月17日に発表された。銀行からの借り入れを活用して地方政府に在庫住宅を買い取らせるほか、住宅ローンの下限金利撤廃や最低頭金比率の引き下げも発表しており、にわかに不動産市場の改善期待が市場で高まるきっかけになった。

③「株価バリュエーションの違い」は、市場予想PER(株価収益率、12ヵ月先、24年4月末時点)に表れている。市場予想PERはMSCI日本株指数で16.4倍、MSCI中国株指数で9.8倍と明らかな違いがあり、投資家にとってみれば中国株のほうがバリュエーション面で買い安心感があったと推察される(図表4)。

だが、市場予想EPS(1株当たり利益、12ヵ月先)の推移を見ると、MSCI日本株指数が円安等を背景に右肩上がりとなっている一方、MSCI中国株指数は景気の先行き不透明感等を受けて低迷した状態になっている(図表5)。

おそらく足元の中国株上昇はこれまでの株価低迷による反動高に過ぎない可能性があり、本格的な上昇相場は市場予想EPSの底打ちを待つ必要があるだろう。逆に言えば、日本株が再び物色される可能性もあると考えられる。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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