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過去との決別を示す~米国債と米ドルの同時下落が投資家に警告を鳴らす理由
2025/04/21

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概要

米国債と米ドルの同時下落から何を読み解くべきなのか、我々の見解をご紹介いたします。



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米国債と米ドルが同時に下落することは非常に稀なことですが、先週そうした事態が起きました。過去40年で4番目に厳しい同時下落となりました。

この2つの資産の下落には様々な背景がありますが、この規模の動きは、トランプ大統領の主要政策に対する明確な拒絶を示すものであり、資金の避難先としての米国債と米ドルの地位がもはや当然のものではなくなったことを投資家に警告しているとみられます。つまり、これは投資家にとって重要な分岐点なのです。

ピクテでは、米国のソフトパワー(外交政策や多国間協力など様々な分野)が着実に損なわれ、いずれ米国の資金調達コストの大幅な上昇につながると指摘してきました。トランプ政権の政策はその決定的な日を早めただけです。

貿易相手国の対米ドル黒字を減らすことを目指すトランプ政権の輸入関税は、当然ながら米ドルと米国債への需要を減らします。また、政権が米ドルと米国金融システムを武器化していることや、政策の振れ幅が大きいことも、米国への投資魅力を一層損なっています。

“米国は世界の安定源から不確実性の震源地へと変貌しました。そのため、世界の資金が米国に殺到することを期待するのは現実的ではありません。”


不確実性の震源地

もちろん、米国は長年にわたり世界を自国の意のままに動かしてきました。

数十年にわたり、米国の例外主義(地政学、経済、金融システムにおける米国の圧倒的な主導的役割)により、米国は経済の正統性の限界を押し広げることができました。それにより、直近10年間は、財政赤字と経常赤字の双子の赤字を抱えながらも、好調な経済を維持できました。

しかし、現在のトランプ政権の政策は全く異なる次元のものです。米国は世界の安定源から不確実性の震源地へと変貌したようです。

どの国にとっても、信頼性が最大の資産です。一度失ってしまえば、修復するのは極めて難しくなります。そのため、世界の資金が今後も現在のペースで米国に流れ込むと期待するのは現実的ではありません。

英国は教訓となる事例を提供しています。2022年に当時のトラス首相が財政の裏付けのない大型減税パッケージを打ち出したことで、英国債が激しく売り込まれ、国債市場にパニックをもたらしました。先週の金融市場の混乱の中で、英国債は主要国債に比べて大幅に変動し、30年債利回りは1998年以来の高水準に達しており、今も当時の影響は残っているといえるでしょう。

タームプレミアム*に注意

投資家が米国金融資産のリスクを再評価するにつれ、米国債利回りの構成要素であるターム・プレミアムは10年超ぶりの高水準に上昇しています。

広く使われているモデルに基づく当社の計算では、タームプレミアムは現在のレベルから少なくとも25ベーシスポイント上昇する可能性があります。


*一般に、長期債を保有する際に、予想される経済成長率やインフレ率などを背景とした変動変動リスクや流動性リスクが高まる分を考慮し、投資家が求める上乗せ金利を指す。

 



債務の山

米国の状況をさらに危うくしているのは、異例の高い公的借入需要です。

財務省は今年、財政赤字を賄うため、2兆米ドルの新規債発行と8兆米ドルの満期償還債の借り換えを行う予定です。

懸念されるのは、これまでのところ、財政収支の悪化に債券発行が追いついていないことです(図表2参照)。残りの期間で5,000億米ドルの純増発行が必要となり、その際の資金調達コストは現在より高くなるでしょう。



追加的な債券供給は、すでに発行済み債券の5分の1以上を占める短期国債よりも、中期から長期の国債を対象とすることが見込まれます。

しかし、トランプ大統領の予定する減税と景気減速に伴う税収減により、財政収支はさらに悪化すると予想されます。

最近の米国債入札は弱く、投資家に別の警告を発しています。供給増加が利回り上昇につながれば、米国の債務状況はさらに悪化するでしょう。米国議会予算局は、利回りが毎年0.1ポイント上昇すれば、2026年から2035年の期間で財政赤字が3,500億米ドル増加すると試算しています。

‟経済と米国資産への打撃はすでに生じています。トランプ大統領は債券投資家に対し、米国債と米ドル以外の選択肢を検討する十分なインセンティブを与えました。ここから後戻りはできません。”


大きな変化はなく、徐々に劣化

そうは言っても、米国が一夜にして資金の避難先としての地位を失うと考えるのは間違いです。米ドルと米国債に匹敵する流動性を持つ資産は他になく、世界のポートフォリオの主要投資対象であるため、この過程は長期にわたるとみられます。しかし、中長期的には、投資家は米ドルと米国債に代わる代替資産を探し、徐々に米国資産への投資を分散させることが賢明だと考えます。

そうした中で、ピクテでは米国資産からの投資先の分散において、ドイツ国債と金が最も恩恵を受ける資産とみています。また、新興国の現地通貨建て債券や高格付け社債にも資金が流入する可能性があるでしょう。

4月の米国債パニック時、ドイツ国債利回りは安定していました。ドイツ国債は1989年以来、米国債に対して週次で最大のアウトパフォーマンスを記録しました。これは、国債投資家が選別眼を持ち始めたことを示しています。

一方、金価格は1オンス3,100米ドルの最高値を記録しました。新興国の中央銀行が外貨準備の一部を金に振り向けており、金価格の堅調な展開が続くと予想されます。

また、米国債市場の犠牲の上に上昇しているのは新興国市場のソブリン債です。 新興国は安定した財政基盤を持ち、経済が成長し、政策金利をさらに引き下げる余力があります。

重要なのは、唯一インフレ率が市場予想を下回っているのが新興国であることです。これにより、特に中南米の現地通貨建て国債が魅力的になります。さらに、新興国と先進国の成長率格差が拡大すれば、高格付け新興国社債にも恩恵がある可能性があります。

もちろん、トランプ政権の関税政策は今後、変更される可能性がありますが、貿易交渉の行方に関わらず、経済と米国資産への打撃はすでに生じていると考えています。トランプ大統領は、投資家に米国債と米ドル以外の選択肢を検討する動機を与えてしまいました。もはや後戻りはできません。

 


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