Article Title
ドイツの財政規律は、少しは緩むのか?
梅澤 利文
2020/02/27

Share

Line

LinkedIn

https://www.pictet.co.jp/investment-information/market/today/20200227.h...
URLをコピー

Perspective of high rise building and dark steel window system with clouds reflected on the glass.Business concept of future architecture,lookup to the angle of the building corner. 3d rendering

概要

新型コロナウイルスの景気に対する悪影響が懸念される中、景気刺激策を求める声が強まっています。ただ金融政策は、特に先進国では利下げ余地が低下しているため、財政政策に対する期待が高まっています。そのような中、厳格な財政規律を維持し拡大に消極的なドイツに、変化の兆しが見えてきました。



Article Body Text

ドイツ財務相:地方政府支援への借入制限について一時解除を検討と報道

ドイツのショルツ財務相が債務に苦しむ州政府の歳出余地を広げるため、憲法に基づく借入制限の一時的な解除を検討していると、複数のメディアが報道しています。例えば、独紙ツァイトは2020年2月26日に報道しています。

報道によると、ドイツの地方政府が抱える債務の一定分を連邦政府に移すもので、地方政府はより多くの予算を必要な投資に充当できる可能性が考えられます。厳格な財政規律で知られるドイツが、限定的ながら財政刺激策を選択する可能性を示唆する内容で、今後の展開が注目されます。

 

 

どこに注目すべきか:債務ブレーキ、財政規律、Ifo、ZEW、CDU

新型コロナウイルスの景気に対する悪影響が懸念される中、景気刺激策を求める声が強まっています。ただ金融政策は、特に先進国では利下げ余地が低下しているため、財政政策に対する期待が高まっています。そのような中、厳格な財政規律を維持し拡大に消極的なドイツに、変化の兆しが見えてきました。

まず、ドイツの厳格な財政規律を振り返ります。最も象徴的な規律は「債務ブレーキ」と見られます。債務ブレーキはドイツ憲法(基本法)などに定められ、主な内容は①連邦政府及び州政府の財政収支を原則として均衡化すること、②連邦政府については、構造的財政収支対GDP(国内総生産)比率をマイナス0.35%までに抑える、とされています。

つまり、①で財政均衡化を原則とし、②で財政均衡の基準を定める構造です。ドイツの財政規律が厳格とされるのは、欧州連合(EU)の財政協定では構造的財政収支対GDP比率はマイナス0.5%と、EUはより緩やかな基準だからです。

また、財政均衡基準は州政府に対してはより厳しい基準が適用されています。今回報道された州政府の財政拡大余地の模索は、恐らく、財政に余裕のある連邦政府が州政府を補助することを検討しているものと思われます。

ドイツの経済成長率と財政を見ると(図表1参照)、財政の余裕に比べ低成長と偏った構造となっています。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁が報道の段階から歓迎の意を示したほど、待ちに待った政策と見られます。

念のため、ドイツ経済の先行きに先行性のある独Ifo企業景況感期待指数やZEW期待指数で見ても、明確な回復に苦慮している印象です(図表2参照)。

ただ、ショルツ財務相が検討していると報道される借入制限の一時的な解除の実現には疑問もあります。憲法で定められた財政規律変更には議会の3分の2の賛成が必要で、ハードルは相当に高いからです。また、メルケル独首相のキリスト教民主同盟(CDU)は4月に党首選挙を控え、党内は分裂とも言える状況で、党内の合意さえ困難と思われます。

それでも、最大の実力者であるメルケル首相は以前、景気後退を回避するには、財政政策拡大を支持する考えを述べたこともあります。ドイツでも新型コロナウイルスの感染拡大の可能性が指摘される中、頑なに維持されていたドイツの財政規律が緩和される可能性に注目しています。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事