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- パウエル議長、講演は短かくも戦略は長い
ジャクソンホール会議で注目のパウエル議長の講演は、あれこれ説明するよりも、短い時間でインフレ対応が最優先だという考えを明確にしました。インフレ対応による景気減速については、インフレ対策を怠った場合の代償の方が痛みを伴うと切り捨て、インフレ抑制に議論を集約させタカ派的な講演内容となりました。市場では景気悪化への不安を示唆する反応が見られました。
ジャクソンホール会議:痛みを伴うとの表現でインフレ抑制に向け、タカ派姿勢を強調
世界の中央銀行関係者や経済学者らが集う経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が2022年8月25~27日に開催され、注目の米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の講演が26日に行われました。
パウエル議長は9分弱と短めな講演の中で一貫して高水準のインフレを抑制することの必要性を主張し、(金融引き締めに前向きな)タカ派姿勢を強調しました。例えば、家計や企業に痛みをもたらすとの表現で、景気悪化を受け入れてでもインフレを抑制することを訴えています。
どこに注目すべきか:ジャクソンホール会議、実質金利、FF金利先物
パウエル議長は短い講演でインフレ抑制に論点を凝縮させて、明確に物価安定と回復の重要性を強調しました。特に重要なのは、インフレ低下のためには景気抑制的な政策スタンスを一定期間維持することが必要と述べている点です。政策金利が長期にわたり高水準で推移することを強調しています。
なお、パウエル議長は講演で1970~80年代の高インフレの苦い経験を引き合いに、①低水準での物価安定がFRBの使命であること、②期待インフレ率のコントロールの重要性、③物価が鈍化するまでタカ派姿勢を維持する、と説明し今後想定される家計や企業の痛みについては、これを回避した場合より大きな痛みを伴うと説明し、覚悟を述べています。
これらから想定される今後の金融政策の展開は、当然のことながら政策金利や国債利回りが高止まりする一方、期待インフレ率が抑制されることで、名目金利と期待インフレ率の差である実質金利の上昇が想定されます。
なお、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)についてパウエル議長は今後の経済指標次第と述べるにとどまり(予想通りながら)具体的な利上げ幅については言及しませんでした。
次に市場の反応を見ると、米国債市場では、政策金利の動向を反映しやすい2年国債利回りも含め、小幅な利回りの上昇にとどまりました(図表1参照)。一方、ダウ工業株30種平均指数やS&P500種指数など米国の主要株価指数は軒並み下落率が3%を超える急落となりました。パウエル議長の講演から高まる景気減速懸念を株式市場は嫌気したと見られます。
また、債券市場はFRBのタカ派化を相当織り込んでいたことも、ジャクソンホール後の米国債市場で利回り上昇が小幅だった可能性があります。この点を確認するため、フェデラルファンド(FF)金利先物市場における将来の政策金利の市場における利上げの折り込み水準をみると(図表2参照)、7月のFOMC直後(図表2では8月1日時点)、市場は年内利上げ後、来年早々利下げを織り込んでいました。しかし、8月月初に公表された米雇用統計が堅調であったこと、FOMC参加者から市場の解釈に対し厳しい警告が繰り返されたことで、徐々に修正され、足元、利上げの想定は6月のFOMC予想(ドットチャート)と大差ないほど、利上げ織り込みが修正されました。先読みは市場の習性ながら、インフレが明確に下がるまでの忍耐も必要でインフレ低下前から利下げを見込むのは勇み足であったのかもしれません。
なお、9月のFOMCでの注目点は、利上げ幅が0.5%かそれとも0.75%かもさることながら、ドットチャートによる今後の政策金利の動向と金融政策運営の基準となるであろう中立金利(景気を熱しも冷ましもしない金利)に上方修正があるかについて、より関心を払うことが必要と思われます。
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