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パキスタン、追加融資合意で格上げもゴールは遠い
梅澤 利文
2023/07/11

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概要

パキスタンに直接投資をする機会は考えにくく、その点では関心は低いものと思われます。しかし、パキスタンや同様に債務問題で苦しむスリランカの位置を地図で確認すると、海上交通の重要拠点に近いこともあって、国際政治の中では、全くの無関係と言い難い面もありそうです。パキスタンはIMFからの追加融資合意を受け格上げされましたが、債務問題の解決には時間がかかりそうです。




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パキスタン、IMFからの追加融資合意を受け、格上げ

格付け会社フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2023年7月10日にパキスタンの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)等をCCC-からCCCに格上げしました。

フィッチがパキスタンを格上げした背景は、パキスタン政府と国際通貨基金(IMF)が6月29日に、期間9ヵ月、30億ドルの追加融資を行うスタンドバイ取り決め(SBA)を実務レベルで合意したことによりパキスタンの対外流動性の改善が期待されるためです。なお、パキスタンはIMFから融資を受ける条件の一つを満たすためパキスタンルピーの為替レートの上限を23年1月に撤廃し、市場原理に基づく為替制度へ移行しました(図表1参照)。

パキスタンの債務問題の背後には複雑な国際政治も見え隠れする

パキスタンの経済危機にはいくつかの要因があげられます。22年の豪雨被害、商品価格の上昇による輸入物価の上昇などを受けたインフレ率の上昇(図表2参照)、過剰債務、カーン前首相が汚職容疑で逮捕(後に釈放)され各地で抗議デモが起きるなど不安定な政局などが主な要因です。

例えばインフレ率を消費者物価指数(CPI)でみると、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で商品価格が上昇したことや、22年の豪雨の影響、通貨安などがインフレ率上昇と重なりました。

より深刻なのはパキスタンの債務問題とみています。パキスタンはIMFが19年に承認した65億ドル規模の拡大信用供与措置(EFF)が6月末に期限切れとなるため、IMFから追加融資(SBA)を受ける必要がありました。パキスタンと関係の深いサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)は新たな二国間融資の前提をIMFの追加融資としていた模様であり、今回のSBA合意には意義があったと思われます。なお、SBAは合意の段階であり、今月のIMF理事会で承認される必要があります。

パキスタン以外にもスリランカなど債務に苦しむ新興国があります。これらを対岸の火事と決め込むわけにもいきません。債務返済に苦しむパキスタンは6月に割安なロシア産原油の輸入を開始し、今後も継続する意向を示しています。また、報道では同国最大の港であるカラチ港をUAEに譲渡する方向で検討中とも伝えられています。資金調達のためこのような取引を可能とする法律が昨年制定されました。この辺りの事情は中国に一部港の運営権を99年間譲渡したスリランカとイメージが重なります。

IMFとの合意は朗報だが、パキスタンの債務問題の解決は長期戦の様相

パキスタンなどの債務問題は背後に複雑な国際政治も絡むだけに、今後の展開を見守る必要があります。見守るポイントとしては債権者と債務国が交渉を継続できるかなどが注目されます。

例えば、パキスタンとIMFの交渉では、パキスタンが24年度(24年6月末まで)予算案を修正し、歳入の確保と歳出カットを新たに盛り込みました。またIMFはパキスタンに為替制度の柔軟化や、補助金削減を求めました。パキスタンは今年1月に為替レートの上限を撤廃し、市場原理に基づく為替制度へ移行しました。その結果として図表1にあるようにルピー安が進行しました。

また価格抑制のための補助金の削減はエネルギー販売価格を押し上げたこともインフレ悪化要因となっています。改革は痛みを伴うもので、政治がどこまで融資の前提条件を受けいれるかという問題が付きまといます。

フィッチはパキスタンとIMFの合意を受け格上げしましたが、格上げ後の格付けはCCCにとどまり、今後の問題が山積みであることを示唆しています。IMFの昨年の報告で、パキスタンの債務総額は約1000億ドルとみられ、その構成も複雑となっています。目先の返済額を見ても、24年度に満期を迎える債務返済額は約150億ドルです。IMFからの追加融資では不十分です。パキスタン政府は100億ドル程度を債券で調達する意向ですが、資本市場からの調達はコストを考えると困難です。

一方で、返済のバッファーとなる外貨準備高は今年2月で40億ドル程度と、21年半ばの200億ドルから急減し、平均輸入額の1ヵ月分を下回る水準しか外貨準備高として確保できていない状況です。とても余裕があるとはいえず、まだまだ先行きに注意が必要です。

パキスタンはIMFから融資を受けるため24年度予算案を6月末に修正するなどギリギリの対応が功を奏した格好です。しかし、パキスタンの債務は過大で解消は長期戦となりそうです。しかし、背後には国際政治も絡むだけに、今後の展開を見守る必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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