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3月の米雇用統計は底堅く、関税懸念はこれから
梅澤 利文
2025/04/07

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概要

3月の米雇用統計は、非農業部門の就業者数が市場予想を大きく上回り、失業率は小幅な上昇にとどまるなど米労働市場の底堅さが示唆された。関税引き上げによる景気悪化懸念が広がるものの、雇用悪化は示されなかった。しかし、事態は刻一刻と悪化している。手遅れにならないよう市場の利下げ催促は続くが、関税政策には物価上昇の懸念もある。FRBは拙速な利下げに慎重な面もあるようだ。




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3月の米雇用統計で非農業部門就業者数は市場予想を上回る伸びだった

米労働省が4月4日に発表した3月の雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から22.8万人増と、市場予想の14.0万人増、2月の11.7万人増(速報値の15.1万人増から下方修正)を上回った(図表1参照)。1月も12.5万人増から11.1万人増に下方修正された。この結果、過去3か月の平均の伸びは15万人程度となっている。

3月の失業率は4.2%と、市場予想、前月(共に4.1%)を小幅ながら上回るにとどまった。米国の関税引き上げで景気悪化懸念が強まる中、雇用の勢いが今後どれほど減速するかに注目が集まっている。平均時給は前月比0.3%上昇と、市場予想通りとなった。前年同月比の伸びは3.8%と市場予想、2月(共に4.0%上昇)を下回った。

3月の米雇用統計は底堅く、関税の影響はこれからだろう

トランプ関税による景気への悪影響を懸念しパニックの様相だ。市場はトランプ大統領の発言などに目を奪われるのは当然だが、経済指標、特に雇用とインフレに関するデータにも引き続き注意を払いたい。雇用統計では次に注目した。1つ目は発表された指標の現状認識、2つ目は今後のポイントだ。この観点で今回の雇用統計を振り返る。

3月の米雇用統計は米労働市場の堅調さが示された。非農業部門の就業者数の伸びは3ヵ月平均で15万人程度と堅調であった。伸びを部門別に見ると、3月は「娯楽・宿泊」部門が前月比4.3万人増とプラス圏に回復した(図表2参照)。寒波やカリフォルニア州の山火事の影響などで「娯楽・宿泊」部門の伸びは1月と2月はマイナスだったが、回復した。3月は悪天候などを理由とした雇用の変動に正常化が見られた。

米政府効率化省(DOGE)などが連邦政府の人員削減を進める政府部門は3月が1.9万人増と、2月を上回った。なお、政府部門は人員削減の対象となっている「連邦職員」と、人員削減の影響が限定的な「州・地方政府」で構成されている。3月は「州・地方政府」が2.3万人増であったのに対し、連邦職員は0.4万人減で、連邦職員に限ると、やはり人員削減の影響がうかがえる。

次に、失業率は3月が4.2%と、前月の4.1%を上回った。しかし、小数点以下2桁まで見ると2月の4.14%から3月は4.15%に上昇したに過ぎない。また、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示された失業率の長期見通しは4.2%で、3月の数字と一致しており水準的に悪いこともなさそうだ。

経済的理由によりフルタイムでの雇用を望みながらもパートタイムの職に就いている労働者などを失業者として算出するU6失業率は3月が7.9%と、2月の8.0%を下回り、改善した(図表3参照)。

昨年8月月初に株式市場が急落した原因の1つは失業率が4.2%(7月雇用統計)となり、サームルールが景気後退を示唆したことは記憶に新しい。サームルールは失業率の変化に注目する指標で、足元、同ルールは景気後退を示唆していない。しかし、今後急速に悪化しないのか注意は必要だ。

刻々と事態が悪化する中、何が支援策となるのか?

市場急落を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)の積極的な利下げや、トランプ大統領が相互関税の緩和に動くのかに期待が集まっている。しかし、週末のパウエルFRB議長やトランプ大統領の発言からは目先の対応は期待しにくい。

パウエル議長は4日の講演で、関税の想定外の大きさに懸念を示しつつも、関税引き上げは物価上昇を伴うことも懸念され、利下げを急がない姿勢が示唆された。コロナ禍の景気悪化時には果敢に金融緩和を断行したパウエル議長だが、関税対応となると勝手が違うようだ。関税は政治色が強く、対応に苦慮しているようだ。3月の米雇用統計のように、経済指標に景気悪化の証拠が乏しい中での利下げは関税支援のような印象もあり、さすがに慎重なのかもしれない。

しかし、先週末には中国が報復関税を表明するなど、刻一刻と事態は悪化している。そして何よりも株価急落は深刻だ。株価の下落は逆資産効果を通じて消費を下押しする懸念もある。

一方、トランプ大統領は中国の報復関税を間違いと指摘したり、FRBに利下げを求めるなど、今のところ関税政策を見直す気持ちはないようだ。そうした中、拙速な対応は論外としても、手遅れにならないための利下げに市場の期待が高まっている。利下げに踏み切るポイントは次の点と見ている。

物価については市場で測定される期待インフレ率が長短期共に足元では抑制されており、これが維持されるかに注目している。一方で、関税懸念を背景に高止まりしている消費者の期待インフレの物価への影響にも筆者は注目している。またこうした状況での企業の価格転嫁にも注目したい。

雇用については失業率などに注目だが、月次と更新頻度が遅く、高頻度データが活用されそうだ。

願望ながら、筆者は(恐らく多くの人も)利下げより市場混乱の原因を正すのが王道と考えている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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