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世界株式投資戦略 気候変動で避けるべき投資
田中 純平
2019/11/26

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概要

気候変動はもはや長期投資をするうえで看過できないリスク要因だ。
世界では米カリフォルニア州や豪州における大規模な森林火災、伊ベネチアの異常な高潮、日本では台風19号「ハギビス」による被害が深刻だ。気候変動による被害が長期的に拡大することが予想される中、長期投資家が気候変動から利する投資手法は「避ける投資」だ。



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加速度的に高まる気候変動リスク。「気候変動」は「気候危機」へ

気候変動を考える際に前提条件として押さえるべき点は、温室効果ガス(GHG)に関わる利害関係者の「利害」が一致していないことだ。
国同士ではこれまでGHGを多く排出してきた先進国と、これから経済発展とともにGHGを多く排出する新興国に隔たりがある。また、現役世代がGHGを多く排出し、将来世代がそのツケを払うという点でも世代間の対立が生じる。これらの利害不一致を短期的に解消させることは困難であり、長期的なすり合わせが必要になる。
しかし、その間もGHGは着実に排出され続け、気候変動に伴う損害(含むGHG削減費用)は加速度的に増加することになる。巨大氷床の崩壊や海洋循環の大規模な変化、永久凍土に閉じ込められた強力なGHGであるメタンハイドレートの融解によって、温暖化が急激に進むことが予想されるためだ。国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)によれば、温暖化対策が最大の場合、2081年~2100年の世界平均気温上昇は1986年~2005年平均と比較して平均+1.0℃にとどまるが、温暖化対策なしでは平均+3.7℃となる(図表1)。
もはや「気候変動」は「気候危機」と表現すべきだろう。

GHG排出量の多いセクターを避けるシンプルな投資手法

気候危機によって被害が今後も拡大すれば、世界はいかにしてGHG排出量を削減し、気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑えるべきかを、これまで以上に議論することになるだろう。
そうなれば株式投資においても気候危機リスクが重要なファクターになる可能性が高まる。
長期投資家が取れる選択肢は2通り。1つはGHG排出量削減に寄与する企業へ投資する方法。
もう1つはGHG排出量が多いセクターを投資対象から除外する方法だ。前者は株価上昇を期待する手法だが、緻密な分析が必要となるため投資家のハードルは比較的高くなる。
一方、後者は株価下落を想定して投資を避ける手法だが、非常にシンプルで分かりやすいのが特徴だ。
図表2は世界の二酸化炭素排出量(燃料別)の推移であり、2017年は石炭と石油で全体の3/4を占めている。
今後これらのセクターで規制強化が進めば、確認埋蔵量の経済的価値が損なわれるかたちで石油・石炭セクターの株価も長期的には軟調に推移する可能性がある。
先進国株と新興国株を合わせたMSCI世界株指数におけるエネルギー(石油・石炭等)セクターの割合は2019年10月時点で約5%と僅かだが、全セクターに投資するインデックス運用よりも、全セクターからエネルギーセクターを除外したポートフォリオ(=避ける投資)のほうが、長期的に見ればパフォーマンスが期待できるかもしれない。

 

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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