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トランプ大統領の関税砲は何をもたらすか?
市川 眞一
2025/04/04

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概要

ドナルド・トランプ米国大統領は、4月2日、『相互関税』を発表した。米国製品に課された関税だけでなく、非関税障壁を税率として算定、基本的にその半分を相互関税率として対象国・地域の輸入品に課税する政策だ。計算方法は不透明で、国際社会の反発は必至だろう。世界の貿易取引の減少が見込まれるだけでなく、米国においてスタグフレーションのリスクが高まるのではないか。



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■ 特徴は非関税障壁の関税化

トランプ大統領の発表した『相互関税』のポイントは、米国製品に対する非関税障壁を関税として算定したことだ。米国通商代表部(USTR)は、3月31日、『2025年国家通商報告書』を公表しており、その内容に沿った措置と言える。もっとも、税率の算出方法は明らかではない。


相互関税として、ベトナムの46%を筆頭に、中国34%、インド26%、日本は24%の税率が課されることになった(図表1)。同時に全ての輸入品に対して10%の基礎的関税が導入される。


一方、『米国・メキシコ・カナダ協定』(USMCA)に準拠するメキシコ、カナダからの輸入品については、個別的な関税が課される自動車、鉄鋼・アルミニウムを除き、今回の措置から除外される模様だ。ただし、合成麻薬鎮痛剤『フェンタニル』の不法輸入問題に関する米国と両国の交渉の行方には、現段階で不透明な部分が残っている。



今回、トランプ大統領がメキシコ、カナダへの重い関税率適用を見送った要因の一つは、両国との貿易取引が、輸入だけでなく、輸出も巨額であることではないか(図表2)。両国が報復関税など対抗措置を採った場合、米国の輸出事業者が受ける影響も甚大になることが想定されていた。


一方、同大統領は、米国の輸入額に対して輸出額が小さく、貿易赤字の大きな国・地域を狙い撃ちした感が強い。それだけに、今後、米国は対象国との非関税障壁撤廃などの交渉に際し、関税率を取引材料とする可能性があるだろう。

■ 高まるスタグフレーションの懸念


関税による自国産業保護が過激化した例は、米国における1930年の『スムート・ホーリー法』まで遡らなければならない。世界の貿易取引は激減し、スタグフレーションに陥ったドイツでは、1933年にアドルフ・ヒトラーが政権を獲って第2次世界大戦の要因になった。戦後間もない1947年、国連が『関税及び貿易に関する一般協定』(GATT)を締結したのは、そうした過去への反省によるものだ。


トランプ政権による先鋭的な関税政策は、国際社会の分断を深刻化させ、地政学的リスクを高める可能性がある。また、経済面では、世界的なサプライチェーンが関税によって寸断されるため、企業にとって効率的な生産拠点の配置が難しくなり、インフレの要因になることが想定されよう。


特に米国において、関税が経済に与える影響が懸念される。トランプ大統領の主張とは異なり、関税は輸入国の輸入事業者が輸入国の政府に対して納税義務を負う税だ。製品価格に転嫁され、結局は輸入国の消費者が負担することになる。つまり、実質的な間接税に他ならない。それは、米国の消費者物価を上昇させるだろう。

2年国債とインフレ連動債の利回りにより算出した市場の織り込む期待インフレ率は、4月2日の時点で3.31%へと上昇した(図表3)。これは、FRBが「長期的な目標」とする2%を大きく上回る。従って、金融政策にも影響が及ぶ可能性は強い。

物価高が消費者マインドを委縮させ、消費が停滞すれば、米国景気が後退局面入りすることも想定される。今年後半へ向け、米国はスタグフレーションのリスクが高まったと言えるのではないか。

リアルクリアポリティクスの集計では、トランプ大統領の仕事に対する世論調査で、既に支持率が不支持率を下回った(図表4)。仮に米国がスタグフレーションになれば、早い段階で共和党内においてトランプ離れが起こることもあり得るだろう。


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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