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- 誰が日本国債を買うのか?
10年国債の利回りが2009年6月以来、15年9ヶ月ぶりに1.5%台となった。背景には日銀の利上げ観測があるとの見方が大勢のようだ。もっとも、それだけではないと考えられる。1月の消費者物価上昇率は前年同月比4.0%上昇した。また、市場が織り込む期待インフレ率も日銀の安定的な物価目標である2%に迫っている。先行きのインフレ観測が強まるなか、実質金利は短期、長期共にマイナスの状況だ。一方、国債・財投債の53%を保有する日銀は、既に量的・質的緩和からの出口戦略に転じた。長短スプレッドにより利鞘を確保する観点から銀行に長期国債を保有する一定の動機があることは間違いない。銀行にとっては、満期保有を前提とすれば国債のリスクウェートはゼロである。ただし、将来、政策金利がさらに上昇することで、逆鞘になる可能性が台頭しており、銀行の買い余力が大きいとは考え難い。今後、日本国債は誰が買い手になるのか、それが大きな問題となるだろう。海外ファンドによる売り崩しが勢いを増す可能性もあるのではないか。
■ 長期国債の保有リスク高まる
昨年秋以降、長期金利は急速な上昇局面にある。そうしたなか、2月21日、衆議院予算委員会へ参考人として出席した日銀の植田和男総裁は、「長期金利が急激に上昇する例外的な状況では、市場における安定的な金利形成を促す観点から、機動的に国債買い入れの増額等を実施する」と語った。マーケットは、日銀がどの水準で長期国債の買い入れに動くのか、試す局面と言えるだろう。
■ 期待インフレ率は日銀の目標へ接近
フィッシャーの方程式によれば、「名目金利=実質金利+期待インフレ率」であり、市場が織り込む実質金利は物価連動債の利回りに示される。従って、「期待インフレ率=名目金利-物価連動債の利回り」となるが、足下、この公式に5年国債と物価連動国債の市場価格を当てはめると、市場が織り込む期待インフレ率は1.96%だ。日銀の安定的な物価目標である2%に限りなく接近したと言えるだろう。
■ 物価上昇率を大幅に下回る
1月の消費者物価統計では、総合指数が前年同月比4.0%、生鮮食品を除くコア指数は同3.2%上昇した。一方、3月に発行される10年国債の表面利率は1.20%だ。つまり、今、長期国債を購入した場合、実質金利がマイナスの資産を抱えることになる。長短金利差を利鞘とする銀行には一定の保有動機があるかもしれない。しかしながら、最終投資家にとって、長期国債は魅力ある投資対象ではないだろう。
■ 発行済み国債・財投債の50%以上を日銀が保有
2013年4月4日に量的・質的緩和を採用して以降、日銀は異次元緩和の下で国債を大量に購入してきた。昨年9月末現在、その額は発行済み国債・財投債の52.6%に達している。その日銀が出口戦略に転じたことで、国債には主な買い手が不在になった。金利水準が物価との関係で魅力あるレベルにならない限り、最終投資家が国債を買うのは難しいだろう。むしろ、売り圧力が強まるのではないか。
■ 実質金利はマイナスゾーン
植田日銀総裁は、衆議院において、「長期金利(国債利回り)は先行きの短期金利の見通しに国債保有に伴う各種リスクに応じたタームプレミアムを加えて形成される」と説明した。これを方程式にすると、「長期金利=実質短期金利+期待インフレ率+タームプレミアム」となる。従って、実質金利がマイナスになるのはむしろ異常な状態だ。日本では、異次元緩和によりその異常な状態が常態化した。
■ 誰が日本国債を買うのか?:まとめ
日銀の異次元緩和は概ね11年間に及んだことで、”too big to change”状態になり、出口戦略の難易度は極めて高いものになったと言える。その一つの側面が、長期金利と言えるだろう。発行済み国債・財投債の53%を保有する日銀が残高の縮小に動けば、それは需給関係に大きなインパクトをもたらす可能性が強い。また、長期に亘るイールドカーブのコントロールによって、長期金利のあるべき水準は極めて不透明になった。そうしたなか、インフレ圧力が高まっており、金利の急上昇、言い換えれば国債市況の急落局面が始っている。植田日銀総裁は、国債売り崩しを牽制する上で、国会において機動的な国債買い入れの可能性に言及したのではないか。ただし、この状態で日銀が国債を買えば、インフレ下における量的緩和になるため、円が売り込まれることになりかねない。結局、国債は買い手が不在になることで、長期金利が急上昇を続け、利払い費の急増がさらに財政を圧迫する懸念が強まった。今、国債を買うことは賢明な投資判断とは言い難いだろう。
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