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低位だが安定する石破政権
市川 眞一
2025/03/04

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概要

自民、公明両与党は日本維新の会と「高校無償化」などに関し予算案の修正で合意した。2025年度予算は3月上旬に衆議院を通過し、年度内成立が確実な状況と言える。2月7日の日米首脳会談に続き、石破茂首相にとり成果と言えるだろう。報道各社による2月の世論調査を見ると、内閣支持率は下げ止まりの状況だ。石破政権の次の大きな関門が7月の参議院選挙であることは間違いない。昨年10月の衆議院総選挙直後には、自民党内の一部に参議院選挙前のリーダー交代論があった。しかし、現在は石破首相の下でこの選挙を戦う方向へ大きく傾いたのではないか。背景には、参議院選挙の特徴があると見られる。定数の半数である124議席を改選するこの選挙では、地方区において32区ある1人区の結果が全体の勝敗を大きく左右する傾向が強い。「年収103万円の壁」問題への取り組みで支持率が上昇している国民民主党も、この1人区で議席を得るのは容易ではないだろう。組織力を誇る自民党は、7月へ向け自信を回復しつつあると見られる。



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■ 自民党は参議院では単独過半数に満たない

昨年10月27日の総選挙で大きく議席を減らした自民、公明両与党は、衆議院での過半数に12議席足りない。最優先課題である2025年度予算の成立には、少なくとも野党の一部の協力が不可欠だ。2月25日、与党は日本維新の会が主張する高校教育無償化などに関して合意、同党の賛成により予算案は3月上旬に衆議院を通過する見込みとなった。石破政権にとって成果と言えるだろう。



■ 石破内閣発足時の支持率は岸田内閣を下回る

2月に大手メディア7社が行った世論調査の結果を見ると、石破内閣の支持率は平均で36.0%になった。前月と比べ0.6%ポイントの上昇だ。昨年12月の35.3%を底として、取り敢えず下げ止まっている。2月7日に行われた石破首相とドナルド・トランプ大統領による日米首脳会談が、有権者の安心感につながったのではないか。ただし、絶対水準が高いとは言えないだけに、緊張感の高い状況が続くだろう。



■ 石破首相の首相プレミアムはプラスを維持

内閣支持率は、基本的に内閣総理大臣の支持率と言える。その内閣支持率から首相の所属政党の支持率を差し引いたのが「首相プレミアム」と呼ばれる指標だ。歴代の首相を見ると、首相プレミアムがマイナスになった場合、退任を避けられなかったケースが多い。石破首相の場合、首相プレミアムはプラスゾーンを維持している。ただし、マージンは僅かであり、政権が盤石な状況であるとは言えないだろう。



■ 支持率では国民民主党が第2党へ

報道各社の世論調査で政党支持率を見ると、2月の時点で平均26.8%の自民党に次ぎ、国民民主党が10.4%で初の2番手になった。所得税に関する「年収103万円の壁」問題を提起、基礎控除と給与所得控除の引き上げを求める姿勢は、昨年10月の総選挙以降、有権者に浸透している模様だ。2025年度予算の修正で与党とは一致しなかったが、党勢拡大にむしろ好材料となる可能性は否定できない。



■ 一般法案、国会同意人事は基本的に衆参両院の権限は同党

当面の政治日程を見ると、2025年度予算の年度内成立が確実となるなか、次の焦点は7月の参議院選挙と言えるだろう。昨年10月の総選挙で自民、公明両与党は衆議院で過半数を失った。さらに参議院でも過半数割れになれば、政権の維持が極めて難しくなることは間違いない。そうしたなか、日米首脳会談の成功、内閣支持率の下げ止まりを受け、自民党内には参議院選挙を石破首相の下で戦う機運が高まりつつあるようだ。



■ 2回連続で勝たないと参議院での単独過半数確保は難しい

参議院は、現在、定数が248議席、議員の任期は6年で、衆議院と異なり任期中における解散はない。選挙は、定数の半数、つまり124議席を3年毎に改選する仕組みだ。1つの政党が参議院で過半数を確保するには、基本的に2回連続で勝たなければならない。1989年の選挙で大敗して以降、自民党は参議院で過半数を持たない時期が大半であり、結果として日本の政治は連立の時代に突入した。



■ 1人区(小選挙区)が32区

改選124議席のうち、都道府県単位の選挙区に74議席、全国を1区とする比例区に50議席が割り当てられている。また、選挙区は、鳥取、島根及び徳島、高知が合区され、全体で45選挙区だ。このうち、当選者が1人の1人区(=小選挙区)が32選挙区、2人区は8選挙区、3人区4選挙区、4人区4選挙区、6人区は東京のみになっている。都道府県単位のため、1票の格差は衆議院に比べ大きい。



■ 1人区での圧勝が自民党を勝利に導いた

2022年7月の前回参議院選挙を振り返ると、比例区では、自民党が18議席を得たのに対し、野党は合計26議席だった。また、選挙区の2~6人区でも、自民党は16議席、野党は19議席だ。それでも自民党が改選過半数を超える63議席を得たのは、32区ある1人区のうち、29区を制したからである。1人区は地方の高齢化が進んだ県が多く、大都市が勝敗を決する総選挙とは異なる戦い方が求められる。



■ 低位だが安定する石破政権:まとめ

内閣支持率が下げ止まるなか、自民党内では7月の参院選を石破首相の下で戦う機運が高まっているようだ。理由の一端は参院選の仕組みだろう。世論調査で支持を広げる国民民主党の場合、地方組織は脆弱であり、選挙区の1人区で議席を得るのは容易ではないと見られる。一方、自民党は全国的に強固な組織力を有し、1人区は牙城とも言える地域だ。この点は都市部の結果が選挙全体に影響する衆議院総選挙とは大きな違いである。自民党は、参議院選挙へ向け自信を回復しているのではないか。



 

 

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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