Article Title
世界株式投資戦略 なぜ年金基金は水インフラに注目するのか?
田中 純平
2019/12/20

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

年金基金は投資期間が10年を超える長期投資家と位置づけられる。その長期投資家がいま注目するのが水インフラ投資だ。インフラ投資は巨額の資金を運用する年金基金のような機関投資家のみが投資可能なものだと思われがちだが、実は個人投資家もインフラ投資によるリターンを享受することが可能だ。



Article Body Text

インフラ事業投資には様々な経済的合理性があると考えられる

インフラ事業は社会に欠かせないライフラインを提供し、景気変動の影響を受けにくく、規制による高い参入障壁、物価上昇リスクに対する耐性、安定したキャッシュ・フローといった特長がある。年金基金は世界的な低金利環境や分散投資の観点から投資対象をインフラ事業等にシフトさせる傾向にあり、その中でも水インフラに注目が集まっている。代表的な事例は、年金基金やソブリン・ウェルス・ファンドによる英Thames Waterへの出資だ。Thames Waterは英国内で水インフラ事業を手掛ける民間企業だ。株主にはカナダのオンタリオ州地方公務員年金(OMERS)や英国大学退職年金制度(USS)など10の運用機関が名を連ねる。

 

 

水インフラ事業は自治体運営が主流。民営化によって投資機会の拡大が想定される

世界の水インフラ事業の大半は自治体によって運営されており、民営化されているのはごく一部だ(図表1)。しかし、自治体による運営では、老朽化するインフラ施設や肥大する運営コストに対して適切に対処することは難しい。(日本の例ではあるが)水の安全保障戦略機構事務局と新日本有限責任監査法人による共同報告書(2018年)によれば、2040年までに水道料金の値上げが必要とされる日本の事業体数は全体の90%に及び、水道料金の値上げ率は全体平均で36%といった推計もある。そのため、水インフラ事業の民営化が急務となっている。日本では2011年11月施行の改正PFI法によってコンセッション方式(運営権だけを民間に売却する手法)が解禁され、2019年10月施行の改正水道法によって自治体のモニタリング強化や責任が明確化された結果、今後は水インフラ事業の民営化に弾みがつく可能性がでてきた。すでに浜松市は2018年4月からコンセッション方式で下水道事業を民営化しているほか、宮城県は上下水道、工業用水のコンセッション方式の民営化案が今年12月17日に宮城県議会で可決された。

 

 

民営化の潮流からリターンを享受する方法は水インフラ関連株式への投資

個人投資家も年金基金のような投資を行うことが可能だ。前述した英Thames Waterは非上場会社だが、水インフラの主要企業である仏Veolia Environnement や仏Suez 、英Severn Trentなどは上場会社なので、これらの株式に投資することによって民営化の潮流からリターンを享受することができる(図表2)。しかし、水インフラ関連株式はあくまで長期目線で投資することが重要だ。年金基金の投資期間が10年以上であるのと同様、個人投資家の投資期間も10年以上であるべきた。非上場会社と違い、上場会社の株式は流動性がある反面、株価が大きく変動するリスクがあるので、リスクを抑える観点から長期投資が欠かせないのだ。無論、水インフラ関連株式だけでなく、その他の資産に分散投資することも忘れてはならない。

 

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


岸田政権による次の重点政策

議事要旨に垣間見る、QTのこれまでと今後

米国の長期金利に上昇余地

原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動