- Article Title
- 為替はどちらに動くのか?
円/ドルの方向性に関し見方が交錯している。ジョー・バイデン政権による追加経済対策もあり、米国景気の回復が加速、日米金利差が拡大するとの観測から、一時、1ドル=110円を突破した。しかし、為替に影響するのは実質金利だろう。米国の期待インフレ率が高まるなか、年度末を控えた日本企業の円転が一巡、再び円が対ドルで上昇局面を迎える可能性がある。
米国経済:目立つ期待インフレ率の上昇
米国の3月における消費者物価は前年同月比2.6%上昇となり、新型コロナ禍以前の水準へ戻っている。インフレ連動債と10年国債の利回りから算出した市場が織り込む期待インフレ率も急速に切り上がっており、2014年7月以来の2.3%台乗せとなった(図表1)。バイデン政権の追加経済対策に加え、米国各地においてワクチン接種が進んでいることから、経済正常化への観測が強まっているからだろう。
ちなみに、リーマンショック後から新型コロナ禍以前となる2010年代の10年間、米国の平均期待インフレ率はFRBの物価目標と一致した2.01%だった。一方、10年国債の平均利回りは2.39%なので、平均実質金利は0.38%だ。足下の実質長期金利は▲0.7%台を推移しており、一般的にはFRBが量的面でのテーパリング、さらには利上げを検討しても不思議ではない水準に達したと言える。
もっとも、現在の需要拡大は財政の貢献度が大きく、年後半にはその効果が薄れるだろう。また、雇用が回復しつつあるものの、3月の失業率は6.0%と完全雇用には遠い状態だ。さらに、労働参加率が61.5%と低迷していることから、今後、潜在的求職者が労働市場に回帰すれば、失業率の低下にブレーキが掛かる可能性もある。
景気の減速や雇用回復の遅れは、ドナルド・トランプ前大統への国民の求心力を高めかねない。従って、バイデン政権及びFRBの財政・金融政策は、当面、経済成長を重視したものとならざるを得ないだろう。
円/ドル相場:実質金利差が為替を動かす要因
円/ドルレートは、2021年に入って1ドル=102円台まで円高が進んだものの、その後はドルが反発に転じた。米国景気の回復が加速するとの期待感により、米国の長期金利が上昇、日銀のイールドカーブ・コントロールでゼロ%付近にある日本と金利差が拡大したことが背景と考えられる。
しかしながら、歴史的に見ると、円/ドルに影響するのは名目長期金利差ではなく、実質短期金利差だ(図表2)。日本の消費者物価は、3月、前年同月比0.4%の下落だった。今後、携帯通信料金引き下げの影響が反映されるため、物価にはさらに下押し圧力が掛かるだろう。その結果、日本の実質金利はプラスゾーンに留まる可能性が強い。つまり、日本の実質長短金利が米国を上回る状態が維持され、為替市場では円高方向への力が強まるのではないか。
1-3月については、年度末を前に日本企業が海外子会社の配当などを円転する時期に当たっていた。そうした季節的要因も新年度入りで解消されるだろう。物価の上がり難い日本の場合、実質金利の高止まりにより、為替市場において中期的にドル安・円高圧力が続く可能性は否定できない。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
ディープ・インサイトの記事一覧
日付 | タイトル | タグ |
---|---|---|
日付
2024/12/20
|
タイトル USスチール買収審査は分断の象徴か!? | タグ |
日付
2024/12/20
|
タイトル 日銀植田総裁は想定よりハト派だった | タグ |
日付
2024/12/18
|
タイトル スイス中銀はマイナス金利へと向かうのか? | タグ |
日付
2024/12/13
|
タイトル 企業倒産件数が示す変化 | タグ |
日付
2024/12/12
|
タイトル 史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか? | タグ |
日付
2024/12/06
|
タイトル 日本企業の問題点 法人企業統計より | タグ |
日付
2024/11/29
|
タイトル 大型経済対策は役に立つのか? | タグ |
日付
2024/11/29
|
タイトル 米短期金融市場とQTの今後を見据えた論点整理 | タグ |
日付
2024/11/25
|
タイトル 日銀金融政策決定会合、どこに注目すべきか | タグ |
日付
2024/11/22
|
タイトル トランプ政権下における金融政策 | タグ |