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半導体対中戦略に見る米国の「自国ファースト」
市川 眞一
2021/07/30

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概要

米国はトランプ前政権下で安全保障に関わる自国製品・技術の対中輸出管理を強化、バイデン政権もその骨格を受け継いでいる。再輸出に米国商務省の許可が必要とされたことで、2019年に入り日本の対中半導体輸出額は前年割れになった。一方、日本企業のシェアを奪うかたちで米国の輸出は急増している。典型的な米国の伝統的「自国ファースト」政策と言えるだろう。



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米国の対中輸出管理強化:日本の対中半導体輸出は減少したが・・・

2018年、米国は『輸出管理改革法(ECRA)』を制定、輸出管理を強化した。米国原産品を組み込んだ場合、非米国製品であっても、広範な分野において特定国への輸出・再輸出には商務省の許可を必要としたのである。トランプ大統領の貿易不均衡是正策、そして米国内における対中警戒感の利害が合致した結果と言えるだろう。

この米国の貿易管理に関し、日本企業は極めて敏感に反応した。中国、香港に対する半導体輸出額は、2019年に前年比2.3%、2020年には同4.9%減少している(図表1)。日本が得意とする半導体メモリなどについて、米国商務省への申請に対し許可が下りないケースもあるようだ。

 

日本企業が米国の貿易管理強化の下で慎重になるのは、過去に苦い経験があるからだろう。代表例は1987年の東芝機械事件だ。米国海軍の運用する潜水艦のスクリュー製造に使われていた工作機械が旧ソ連に輸出されていたことで、親会社である東芝の会長、社長が引責辞任、中曽根康弘内閣(当時)も米国政府への謝罪を余儀なくされた。

日本の半導体関連企業は、米国内で広範な事業を展開するだけでなく、米国製の技術を組み込んだ自社製品を世界で販売している。米国政府から目を付けられた場合、その影響は大きく、規制に対し敏感になるのは止むを得ないだろう。

もっとも、その中国、香港への半導体ビジネスを拡大させているのは、他ならぬ米国企業だ。2000年の輸出額は中国向けが前年比24.7%増加した。人権問題が深刻化した香港向けは同2.7%減少したが、2021年1〜5月については、中国向けが前年同期比53.6%、香港向けも同60.6%伸び、金額ベースで日本を凌駕している(図表2)。特に今年に入り半導体メモリの対中輸出は前年同期比96.0%増加した。

 

安全保障と経済:求められるバランスの維持

安全保障と通商政策をシンクロさせ、自国産業・企業へ有利な状況を作り出すのは、伝統的に米国の得意とするところだ。大統領は変わったが、半導体の対中ビジネスで日本からシェアを奪う姿勢は一貫しているのではないか。

一方、4月13日にワシントンで行われた日米首脳会談では、非常に厳しい対中警戒感が示された。台湾を巡り緊張感が高まるなか、共同声明には、日米は半導体の新たなサプライチェーン確立へ向け強力する方針が示されている。

安全保障は米国との同盟関係が軸であり、且つ米国が世界最大の市場である以上、日本にとり日米が「最も重要な2国間関係」であることに疑問の余地はない。ただし、ビジネスに関しては、中国とも関係を維持する知恵が必要だろう。安倍晋三前首相はその点に関しバランスを維持したが、外交基盤の脆弱な菅政権は米国に振り回されてる感が否めない。


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市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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