Article Title
「共同富裕」でパフォーマンス格差が広がる中国株式指数
田中 純平
2021/09/27

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国では社会格差の是正を目指す「共同富裕」の実現に向けて、社会全体における富の再分配を主眼とした規制強化が相次いでいる。これをきっかけに、中国の代表的な株価指数であるMSCI中国株指数とCSI300指数のパフォーマンス格差が広がっている。その背景にあるのは、①業種別構成比率と、②中国A株とH株の価格差だ。



Article Body Text

MSCI中国株指数とCSI300指数のパフォーマンス格差が拡大

中国では社会格差を是正させることを目標とする「共同富裕」の実現に向けて相次いで規制強化が打ち出されており、中国株式市場では改めて「チャイナ・リスク」が意識される展開となっている。しかし、中国株の代表的な株価指数であるMSCI中国株指数とCSI300指数の値動きを比較すると、今年5月ごろからMSCI中国株指数がCSI300指数に対して劣後し始めていることが分かる(図表1)。なぜ、同じ中国株を対象とした株価指数にこのようなパフォーマンス格差が生じるのだろうか?その要因としては大きく分けて2つ挙げられる。

1つは業種別構成比率の違いだ(図表2)。外国人投資家がアクセス可能な中国A株、B株、 H株、レッドチップ、ADR(米国預託証券)などで構成されるMSCI中国株指数は、Alibaba GroupやMeituanなどの一般消費財・サービスや、Tencent HoldingsやBaiduなどのコミュニケーション・サービスの比率が高く、規制強化のターゲットとなっている急成長業種が多く含まれている。その一方、上海/深セン株式市場に上場する中国A株で構成されるCSI300指数は金融や生活必需品の比率が高く、どちらかと言えば「オールド・エコノミー」が中心だ。そのため、業種ごとの規制環境の違いが株価指数のパフォーマンスにも影響を及ぼしている。

もう1つは中国A株とH株の価格差だ(図表3)。大手中国企業は中国本土市場(A株)と香港市場(H株)で株式を重複上場させるケースが多い。しかし、中国本土市場では中国国内の投資家が主な売買主体であるのに対し、香港市場では外国人投資家が主な売買主体だ。そのため、中国国内の投資家と外国人投資家における投資尺度の違いから、中国A株がH株に対してプレミアム(割高)で取引されることが常態化している。今回のように外国人投資家が「チャイナ・リスク」を回避する目的から保有するH株の売却を進めると、H株がA株に対してより大きく下落するため、結果的に中国A株のH株に対するプレミアムがさらに拡大することになる。これが株価指数のパフォーマンス格差につながった2つ目の要因だ。

それではCSI300指数は、「共同富裕」に端を発した「チャイナ・リスク」に対して耐性があると言えるのだろうか。中国の不動産開発大手の中国恒大集団は、巨額債務と中国当局による規制強化を受けてデフォルト(債務不履行)リスクが高まっている。もしデフォルトに陥り不動産業界全体にも悪影響が広がることになれば、中国の商業銀行では不良債権の増加や融資基準の厳格化等が発生し、ファンダメンタルズが悪化する可能性がある。そうなれば、金融セクターを多く含むCSI300指数といえども無傷ではいられないだろう。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?