Article Title
米国年末商戦の行方は?今年は異例の対応続き
田中 純平
2021/11/22

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

NRF(全米小売業協会)によれば、今年の米国年末商戦における小売売上高は過去最高になる見通しだ。堅調な個人所得や健全な家計のバランスシート、さらには小売企業におけるサプライチェーン問題への対応等がその要因とされるが、小売企業の粗利益率についてはその企業の価格決定力に左右されやすいため、ファンダメンタルズをより一層精査する必要がある。



Article Body Text

NRF(全米小売業協会)は過去最高の小売売上高を予想

NRF(全米小売業協会)は、今年の年末商戦(11-12月)の小売売上高が過去最高の8,434億~8,590億ドル(前年同期比8.5~10.5%増)になるとの見通しを示している(図表1)。これは過去5年間の平均4.4%増を上回るほか、昨年の8.2%増という高い伸び率をも上回る水準だ。NRFは、個人所得の増加や強固な家計のバランスシート(高水準の貯蓄等)が消費に寄与するとみているほか、小売企業が消費者の旺盛な需要に応えるためにサプライチェーン(供給網)に多大な投資を行い、在庫を確保するために多額の費用を投じていることが奏功すると見込んでいる。

実際、小売最大手のウォルマートやホームセンター最大手のホームデポ、会員制卸売大手のコストコなどは自前のチャーター船を確保し、供給網のボトルネックに対処しようとしている。また、通常であれば感謝祭翌日のブラックフライデー(今年は11月26日)から本格化する年末商戦をオンライン小売大手のアマゾン・ドット・コムは10月4日、ウォルマートや百貨店のメーシーズは11月初旬に開始するなど、売上が集中する時期をあえて分散させる異例の対応を行っている。

米国小売企業の決算動向はまだら模様

しかし、直近発表された米国小売企業の決算動向はまだら模様だ。ホームデポが11月16日に発表した21年8-10月期(3Q)決算では調整後EPS(1株当たり利益)が3.92ドルと市場予想の3.39ドルを上回った。物流コストの増加を販売価格にうまく転嫁することができたこと等が評価され、株価は前日比5.73%上昇した(図表2)。一方、同日発表したウォルマートの21年8-10月期決算は調整後EPSが1.45ドルと市場予想の1.40ドルを上回ったが、上方修正された22年(会計年度)の調整後EPSガイダンスはほぼ市場予想通りとなり、むしろサプライチェーンの制約に伴う利益率の低下等が嫌気され、株価は前日比2.55%下落した。

11月18日に発表されたメーシーズの21年8-10月期(3Q)決算では、市場予想を上回る調整後EPSを発表したほか、22年(会計年度)の調整後EPSガイダンスを従来の3.41~3.75ドルから4.57~4.76ドルへ中央値で30.3%も上方修正したため、株価は前日比21.17%上昇した。決算会見においてジェネット会長兼CEOが、サプライチェーン問題が今年の年末商戦において重大な影響を及ぼすことは無いとコメントしたことも、買い安心感につながった可能性がある。

今年の米国年末商戦の「売上高」については好調な数字が期待される一方、企業の「粗利益率」についてはその企業の価格決定力(コスト増加分をどれだけ価格転嫁できるかどうか)に左右されやすいため注意が必要だ。今回のようにサプライチェーン問題や労働力不足等によってインフレ圧力が高まる局面では、個別企業のファンダメンタルズをより一層精査する必要があるだろう。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動

超長期の上値抵抗線を突き抜けたS&P500指数

最高値更新のS&P500均等加重指数が示唆するもの

いまはバブルなのか?米IPO市場からヒントを探る

米株高の「資産効果」で個人消費は上振れか?

米国株の上値余地は?利益成長率から考察