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- 日経平均株価が乱高下 パニック相場の真相
8月5日(月)の日経平均株価は前週末と比べて12.4%下落し、31,458円42銭となった。この下落幅は過去最大、下落率では過去2番目に大きいものとなり、日本版の「ブラック・マンデー」となった。当レポートでは、今回のパニック相場をもたらした要因について分析するとともに、8月7日(水)の内田日銀副総裁のハト派発言についても考察する。
8月5日(月)の日経平均株価は前週末比12.4%安
8月5日(月)の日経平均株価は前週末と比べて12.4%下落し、31,458円42銭となった(下落幅では過去最大、下落率では過去2番目の大きさ)(図表1)。この下落の背景には急激な円高進行がある。米ドル円の相場は、7月末の1ドル149円98銭から8月5日には一時1ドル141円70銭まで、円高・米ドル安が大幅に進行した(図表2)。
円高の主なきっかけは、①利上げを決定した7月日銀金融政策決定会合後の記者会見で、植田総裁が追加利上げを示唆したこと、②7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の記者会見で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が9月利下げの可能性について言及したこと、③米7月失業率が悪化したことで米国の景気後退開始を示唆する「サーム・ルール」が発動したこと、などが挙げられる。これらはいずれも日米金利差の縮小(円高・米ドル安圧力の高まり)を示唆するものだ。
植田総裁は7月会合後の記者会見で、経済・物価情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げていく方針を繰り返し強調したほか、利上げによって強いブレーキが景気にかかるとは考えていないことも明らかにした。これによって、市場参加者は、日本が「(ほぼ)金利の無い世界」から「金利ありきの世界」へ急変する畏怖の念を抱いた可能性がある。
「金利ありきの世界」は円キャリー・トレードの縮小をもたらす
日銀が利上げを進めると困るのは、円キャリー・トレードを活用するトレーダーだ。これまでは低金利で円を調達し、米ドルなどの高金利通貨で運用することで利益を上げることができた。しかし、円の調達金利が上昇すれば利益が縮小するだけでなく、円高によって為替差損が発生する可能性もある。
また、円キャリー・トレードの運用先は海外の株式や債券などの伝統的な資産だけでなく、不動産やヘッジファンドなどのオルタナティブ資産にも広がる。このため、円キャリー・トレードの巻き戻しは、これらの運用資産の売り圧力にもつながりかねず、金融市場が変調をきたす恐れもある。
さらに、海外投資家が日本株に投資をする際には、円を売り米ドルを買う為替予約をして為替ヘッジを行えば、その金利差である「ヘッジプレミアム」が利益として発生するが、この取引も解消される可能性がある。したがって、円高・米ドル安と日本株安が同時に発生しやすくなる側面もある。
ヘッジファンドなどのレバレッジド・ファンドの円ポジションを見ると、円ロング(買い持ち)ポジションに対して円ショート(売り持ち)ポジションが、年初から7月上旬にかけて大幅に積み上がっていたことが分かる(図表3)。これが7月11日に発表された6月米CPIの下振れをきっかけに急速に減少したわけだが、それでも7月30日時点で約7万枚ほどネット・ショートだった。8月5日の相場急変時にネット・ショート・ポジションはさらに減少したと推察されるが、依然として解消余地は残っていると考えられる。
内田日銀副総裁のハト派発言は「ゲーム・チェンジャー」となるか?
日銀副総裁の内田真一氏は、8月7日に北海道函館市で開催された金融経済懇談会で、「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と発言し、市場で懸念されていた日銀の早期利上げ観測を打ち消した(図表4)。
内田副総裁は、「日銀の政策変更に伴って円安の修正が進んだ。日本の株価が他国より大きく下落した変動の要因の一つだ」との見解を示し、「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく必要がある」と述べた。内田副総裁の発言は明らかに金融市場への配慮があり、金融政策運営の軌道修正を図ったものと捉えられる。これを受けて当日終値の日経平均株価は前日比+1.19%高となり、米ドル円相場も1ドル146円68銭まで円安が進んだ。
内田副総裁のハト派発言は、「円キャリー・トレード継続」という観点から、日本株式市場を反転させる「ゲーム・チェンジャー」となりうるものだが、株式市場が急落したきっかけは何も日銀の金融政策だけではない。
今回の急激な円高と日本株の急落は、8月2日に発表された米国の7月失業率が4.3%へ上昇したことで、米国の景気後退懸念とFRBの利下げ観測(=米ドル安観測)が同時に高まったことにも起因する(図表5)。
日銀の早期追加利上げ観測が後退した現在、市場参加者の焦点は米国の景気動向に移っている。日本株式市場では日銀の早期追加利上げ観測の後退が一時的な支援材料となったが、当面は米国のマクロ経済指標を注視しながらの神経質な展開が予想される。
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