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なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?
田中 純平
2024/10/31

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概要

米10年国債利回りは10月29-30日に一時4.3%台をつけるなど、10月に入ってから急上昇している。当レポートでは、堅調な米雇用統計に加えて、11月5日の米大統領選で共和党のトランプ氏が勝利し、連邦議会選でも上下両院で共和党が過半数を確保する「レッド・ウェーブ(赤い波)」の可能性が高まっていることが、その背景にあると分析する。



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米10年国債利回りは足元で急上昇

米10年国債利回りは今月に入ってから上昇基調となっている。10月29-30日には取引時間中に一時4.3%台をつけるなど、9月17日につけた3.5%台からわずか1カ月強でおよそ0.8%ポイント上昇した(図表1)。

9月17-18日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で0.5%の利下げ開始が決定され、FOMCメンバーの予想(中央値)では2026年末にかけて2.875%までの利下げが示される中、なぜこの短期間で米国の長期金利は急上昇したのか?

トレンド転換のきっかけは9月米雇用統計

米10年国債利回りの推移を見る限り、これまでの低下トレンドから上昇トレンドへ転換したきっかけは、10月4日に発表された9月の米雇用統計だ。9月の米非農業部門雇用者数は前月比25.4万人増と市場予想の同15.0万人増を大幅に上回ったほか、過去2カ月についても計7.2万人分が上昇修正された(図表2)。

これに対し、8月2日に発表された7月米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比11.4万人増と市場予想の同17.5万人増(過去2カ月は2.9万人分が下方修正)を大幅に下回っており、状況は対照的だ。

底堅い雇用統計は米GDPの予測値にも表れている。9月の米雇用統計が反映されたNY連銀米GDPナウキャストは、24年7-9月期で前期比年率+3.0%前後で推移していた(図表3)。10月30日に発表された実績値の24年7-9月期米実質GDP成長率も、前期比年率+2.8%だった。一時は景気後退入りも危ぶまれていたが、足元の予測値を見る限り、景気の見通しは堅調そのものだ。

「レッド・ウェーブ」の確率が急上昇

米10年国債利回りの上昇にさらに拍車をかけているのが、共和党のトランプ氏が勝利し、上下両院も共和党が過半数を確保する「レッド・ウェーブ(赤の波)」の確率上昇だ(図表4)。賭けサイトのポリマーケットでは、米大統領選と連邦議会選で共和党が全勝するシナリオが10月から急上昇しており、ちょうど米10年国債利回りの上昇とも重なっていることが分かる。

市場が警戒するのは、トランプ氏が打ち出す財政拡張的な政策だ。同氏は自身が大統領任期中の2017年に成立させたトランプ減税(The Tax Cuts and Jobs Act of 2017)を延長・修正する構えだ。CRFB(責任ある連邦予算委員会)の試算によれば、この政策だけで政府債務の増加額が10年間で約5.4兆ドル増加すると見込まれており、その他の歳入・歳出を合わせると計7.5兆ドルの債務増加になるとされている(いずれも中央推定値)。これはハリス氏の3.5兆ドルの債務増加と比較してもかなり大きい(図表5)。

トランプ減税の延長・修正には、トランプ氏の判断だけでなく連邦議会の承認が必要だ。その可能性が「レッド・ウェーブ」の確率上昇で高まっている。政府債務が急増することになれば、米国債の信認が幾分低下することが想定されるため、米国債が売られている(=金利が上昇している)とも解釈できる。米国債は「トランプ・トレード」として取引されている可能性は十分あるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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