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- 日銀植田総裁は想定よりハト派だった
日銀は12月の会合で市場予想通り政策金利を0.25%に据え置いた。植田総裁は記者会見で据え置きの理由として春闘に向けた賃金動向や、米国経済の先行きについて一段の材料が必要なことを挙げた。説明の内容は市場の想定よりもハト派姿勢であったため、為替市場では急速に円安が進行した。円安進行は1月の利上げ支持要因ながら会見内容から1月利上げの可能性はやや低下したようだ。
日銀、市場予想通りの据え置きながら、植田総裁の会見を受け円安進行
日銀は12月18-19日に開催した金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%で据え置くことを決定した(図表1参照)。日銀は7月末の会合で0.25%への利上げを決めてから、利上げ見送りは3会合連続となった。ただし、今回の会合では9人の政策委員のうち、田村直樹審議委員が0.5%に利上げするよう議案を提出し、金利の据え置きに反対した。
19日午後の記者会見で、日銀の植田総裁は今回の据え置きの理由として、来年の春季労使交渉(春闘)のモメンタムなど今後の賃金動向を確認したいことや米国経済の先行きを指摘した。会見を受け市場では円安が進行した。
米国経済の先行きと賃金動向の説明は利上げ観測を後ずれさせたようだ
植田総裁は11月30日付の日本経済新聞との単独インタビューで、①経済データがオントラック(予想通り)に推移している点で利上げに近づいている、②円安への懸念、を利上げを支持する要因として指摘した。
一方、同じインタビューで利上げに慎重な材料として(イ)米国経済の先行きの不透明さ、(ロ)賃金動向の見極めなどを挙げた。12月の会合で政策金利を据え置きとした理由は米国経済の先行きの不透明さと、賃金動向の見極めで、項目として新鮮さはない。しかし、植田総裁による各項目の内容説明はハト派(金融緩和を選好)的で、円安進行や、長短金利の低下がみられた。
米国経済の先行きの不透明さとしてトランプ次期政権の政策を挙げている。そして、今後、利上げをするうえで注目点として植田総裁は、トランプ政権の日本経済への影響は関税対象国や税率、対象品目を知る必要があると述べているが、分からないことには分析しようがない、関税の米経済への影響を見極めてから、日本経済への影響を分析したい、などと回答した。市場ではトランプ次期大統領が就任式を迎える来年1月20日ごろには政策の骨格が判明するとの憶測から、日銀も1月23-24日の会合で利上げとの見方が優勢だった。しかし関税の詳細を待つとのコメントから市場は利上げ観測を後ずれさせたようだ。
賃金動向の見極めに対する説明も利上げ後ずれ要因に感じられた。春闘が大切という点は植田総裁が従来から指摘してきたことだが、今回「大きな姿がわかるのは3月か4月と今回の会見」、と述べたことは、今の時期を考えれば、1月会合における市場の利上げ観測を後退させたようだ。
利上げの有無を経済指標で占うと、近づいてはいるようだが懸念も残る
反対に、利上げを支持する要因を簡単に振り返る。①の経済データとしてカバレッジが広い日銀短観を取り上げる(図表2参照)。今回の短観では中小企業を含めて企業の業況判断指数(DI)は市場予想通り、もしくは上回る動きであった。10-12月期の大企業製造業DIは14と、前期の13を上回った。設備投資(全規模・全産業)は前年度比で9.7%増と、9月調査の8.9%増を上回り、年末に向かって設備投資意欲が健在であることが示された。企業の価格戦略も健在だ。大企業だけでなく、中小企業も価格転嫁に積極的で、販売価格が「上昇」するとの回答の割合から「下落」を引いた販売価格判断DIの先行きをみると、大企業・非製造業は2ポイント上昇してプラス31となった。中小企業・非製造業も4ポイント上昇し、プラス31となった。販売価格の見通しも全規模・全産業で「1年後」が現状水準比2.8%と値上げ姿勢が定着する姿が見られた。
一方で、今回の短観に利上げの不安要素をあえて探すと、先行きに慎重さが見られた。業況判断指数の先行きは製造業が13、非製造業が28を見込みやや警戒心がみられる。海外需要の伸び悩みや人手不足などが懸念材料とみられる。
12月13日に発表された今回の短観は総じてみると、日本経済はオントラックで利上げに近づいていることを支持する内容だろう。しかし短観が、日銀の12月会合での利上げの決め手になりえたかと問われれば、そこまでの強さがあったのか疑問は残る。業種別にみると、小売りや宿泊・飲食サービスなど個人消費関連のDIが前回調査に比べ弱含んでいたことや、先行きDIの悪化が気になるからだ。
今回の植田総裁の会見では国内経済については見通し通りで通過してしまった感もある。オントラックという点はその通りだろう。ただし、利上げの決め手になるほど経済が過熱しているわけではなく、消費などに多少不安が残ると見ている。
円安が判断を左右する可能性もあるが、日銀は利上げを急がないようだ
植田総裁は11月30日付のインタビューで、インフレ率が2%を超え始めているときに一段の円安はリスクが大きいと述べたことから、円安進行は利上げ支持要因と見なされる。インタビュー後(12月月初)為替市場は1ドル=150円程度となった。日銀短観による企業の事業計画の前提となる24年度の想定為替レートが全規模全産業で1ドル=145円前後で推移(12月調査は146円88銭)してきたことから、1ドル=150円前後は「心地よい」レベルと筆者はみている。為替がこの水準であれば、金融政策への影響は限定的と考えている。しかし、今回の日銀会合後、 1ドル=157円台と、注意レベルに突入したようだ。円安がどの程度続くかなどで影響度合いは異なるが、利上げ要因として後退した感のある円安だったが、会合を踏まえ、再び利上げを支持する要因となりつつあるようだ。
日銀が今回の会合で政策金利を据え置いた米国の先行きと賃金動向に加え、国内経済指標と円安動向を踏まえると、1月利上げの可能性はやや後退したのかもしれない。
筆者は植田総裁は(おそらく)円安進行を懸念して、先のインタビューだけでなく、これまで利上姿勢をにじませるコミュニケーションをしていただけに、今回の会見はやや意外感があった。
振り返れば、今年3月に日銀がマイナス金利を脱却する利上げを決定したのは春闘の集中回答の影響が大きかったようだ。トランプ次期政権の政策も就任後に、ある程度見えてくるのではないだろうか。円安が一段と悪化するならば、1月利上げの可能性は十分残るが、植田総裁の会見を素直に聞く限り、3月に利上げを遅らせる可能性も高まった印象だ。
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