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円高?円安?ここからの為替のシナリオ
市川 眞一
2025/02/14

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概要

為替相場は構造的にドル高・円安基調が続くと考える。もっとも、当面は円高方向へ傾き易い状態になるのではないか。円/ドル相場の決定要因は、日米の実質短期金利差と言える。つまり、両国の政策金利とインフレ率だ。ドナルド・トランプ大統領の関税、移民政策はインフレ的であり、FRBが利上げに転じるまで、米国の実質短期金利は低下する可能性が強い。それは、ドル安要因だろう。



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■ 関税により期待インフレ率は上振れ

円/ドルレートは、大きな流れとして日米の実質短期金利差に連動してきた(図表1)。それを前提とした場合、両国の政策金利、そして物価上昇率が為替水準の決定要因に他ならない。


現在、日米の消費者物価上昇率は前年同月比3%程度で並んでいる。平時においては、期待インフレ率はその時点での物価上昇率に概ね一致するため、現時点での実質短期金利差は名目金利の差が決めていると言って良いだろう。米国の政策金利であるFFレート、日本の無担保コール翌日物、それぞれの誘導水準には、依然として4%ポイント近い実質金利差があるわけだ。


米国商品先物取引委員会(CFTC)が集計するヘッジファンドの円先物ポジションは、日銀による出口戦略への思惑を背景に、昨年10月、一時円の買い越しになった(図表2)。その後、日本の利上げはペースが緩慢との認識が拡がる一方、米国経済が堅調との見方が強まったことで、改めて円のショートポジションが増加している。ただし、何かを契機としてこれが解消される場合、円買い・ドル売りの需給要因になるだろう。



そうしたなか、ファンダメンタルズ面でトランプ大統領の政策が為替に影響を及ぼす可能性があるのは、インフレ圧力に他ならない。特に同大統領は、通商交渉のみならず、外交ツールとして関税を使う意向のようだ。関税は輸入国の事業者に納税義務があるため、最終的には価格転嫁され、米国のインフレ率に強く影響する。2年物長期国債とインフレ連動債の利回りから算出した期待インフレ率は、足下、3%近辺へ上昇した(図表3)。2年ぶりの高水準であり、米国でインフレ観測が強まっていることを示すだろう。目先、米国の短期実質金利は低下するのではないか。


■ でも結局はドル高・円安へ

日本の輸入物価は、円の実効レートに大きく影響される(図表4)。円高が進むと、輸入物価が低下する結果、実質短期金利が、さらなる円高が物価を下押しするスパイラル現象になる可能性が強い。


足下については、米国の実質金利が低下すると見込まれる一方、日銀の利上げ観測が強まっている。為替市場では、日米実質短期金利差の縮小により、円高期待が働き易い状況と言えそうだ。


ただし、トランプ大統領は、米国のインフレを長くは放置できないだろう。ジョー・バイデン前大統領の支持率の急低下は、物価の急騰と連動していた。2026年11月の中間選挙へ向け、同じ轍を踏むことは是が非でも避けなければならないからだ。


この見方が正しい場合、仮に米国の物価上昇とドル安が同時進行的に進めば、トランプ大統領と言えどもFRBにインフレフ抑止の役割を期待せざるを得ないのではないか。つまり、利上げの容認だ。

一方、日銀の経常収入は最大5兆円程度と想定される。利上げの場合、超過準備の付利金利も引き上げなければならない。日銀の超過準備は500兆円を超えており、付利金利が1%になれば、利払い費は経常収入とほぼ並ぶ。一段の利上げは赤字拡大により債務超過の可能性を孕み、国債市況や円相場への潜在的影響を考えれば、慎重にならざるを得ないだろう。つまり、日銀の出口戦略は極めて緩慢なペースで進むのではないか。

FRBがインフレ対応で利上げへ転換する一方、日銀の動きが緩慢であれば、実質短期金利差は縮小へ向かう可能性が強い。結局、為替はドル高・円安傾向へ回帰すると想定される。

 


市川 眞一
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。


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