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炭素除去技術 ~ネットゼロ・エミッションを超えて~
2022/04/08

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概要

地球温暖化を止めるためには、「ネットゼロ」の実現に留まらず、大気中の炭素除去を積極的に進め始めなくてはならないかもしれません。



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世界の140ヵ国を超える国と数百社に及ぶ企業が、(温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにする)「ネットゼロ」目標の実現や地球温暖化の阻止および気候変動危機の回避に取り組むことを誓約しています。

とはいえ、6年前に採択された「パリ協定」の要であり、「世界の平均気温の上昇幅を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える」という目標の達成が極めて困難な状況は変わりません。

既に策定された方針を前提とした最新の予測によれば、(2100年時点の)世界の平均気温は現在の平均気温を2.7℃上回ります1

また、「ネットゼロ」誓約をすべて勘案した最も楽観的な予測でさえ、現在の平均気温を1.8℃上回ります。

現状の「ネットゼロ」誓約には、すべての産業がこうしたペースで脱炭素化を進めているわけではないという問題があります。

「ネットゼロ」目標は、大気中に排出された温室効果ガスが、何らかの方法で、同量、除去された時に実現します。

今世紀半ばまでに「ネットゼロ」目標を実現するには、一国のすべての産業が温室効果ガス排出量を削減しなければなりません。

一方、これは、農業、航空、運輸、セメント生産等の産業にとって非現実的な目標であり、排出量は、今後、数十年にわたって、高水準に留まる公算が大きいと思われます。新興国の大半の産業も同様の状況を呈しています。中国とインドは、現在の目標が変更されない限り、それぞれ、2060年および2070年よりも早い時期に「ネットゼロ」目標を実現することはありません。

このような状況で効果をあげることが期待されるのが、大気中の炭素を除去するネガティブ・エミッション技術(NET)です。

ピクテのティンバー戦略およびグローバル環境オポチュニティーズ戦略のアドバイザリー・ボードによれば、各国政府や科学者の間では、NETが「ネットゼロ」目標の実現に不可欠であるとの見方が増え続けています。

事実、ソフトウェア最大手のマイクロソフトや再保険のスイス・リーは、既に二酸化炭素の除去にNETを使い始めています。

二酸化炭素の直接回収等の革新的な新技術は、効率性を改善し、炭素除去費用の削減を可能にする極めて魅力的な技術であり、今後、より広い分野に普及していく可能性があると考えます。

 

ネガティブ・エミッションとポジティブな見通し

ネガティブ・エミッションを実現するための手法は様々ですが、いずれの手法にも、効果、持続可能性、コスト等の面で限界があります。

植林等の確立された手法が、温室効果ガスの吸収や固定化を光合成に頼る一方で、二酸化炭素の回収・貯留や風化作用の強化等の新しい技術には化学の力が必要です。


植林は大気中の二酸化炭素を除去する最も低コストの手法ですが、森林の育成には時間がかかるため、有効性の面では他の手法に劣ります。また、持続可能性は、森林の寿命にかかっています。一方、大気中の二酸化炭素の直接回収技術は導入面では効果が高いかもしれませんが、現在のところ、最もコストが嵩みます。

 

NETは様々な選択肢を企業に提供していますが、ピクテのアドバイザリー・ボードは、単独の技術のみに依存するのは、複数の技術の併用に比べて、効果が劣る可能性があると述べています。特定の技術を単独で用いるよりも、複数のNETを併用する方が、相対的に優れた成果を挙げることが出来ると考えられるからです。技術の組み合わせは、産業や国によって異なります。

マイクロソフトの場合は、炭素除去の85%を植林に頼っていますが、同時に、土壌炭素貯留、バイオエネルギー、バイオ炭、直接回収等の技術を併用しています2

同社は、1975年の設立以来蓄積された炭素排出量の削減のため、世界各地の26のプロジェクトを通じて、既に、総額130万トン相当の炭素を除去する排出権(カーボン・クレジット)を購入しています。

 

ネガティブ・エミッションの価格

意外なことに、NETの利用に最も適しているのは、恐らく、化石燃料業界だと思われます。業界が有する科学、技術、エンジニアリング関連の専門知識の90%程度が、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)技術の開発のために移転・利用出来るからです3

一方、農業やファッション等、炭素排出量の多いその他の産業で、炭素除去技術を幅広く使用することは困難です。

アドバイザリー・ボードによれば、こうした産業により適した手法は恐らく、民間主導のボランタリー・クレジット市場でクレジットを購入することです。創設間もないボランタリー・クレジット市場は、欧州炭素削減価値取引市場等の当局規制下のカーボン・クレジット市場の管轄外で機能しており、炭素除去クレジット(カーボン・クレジット)の(法律で義務付けられた購入ではなく、)自発的な購入を通じて、企業の炭素排出量の相殺(オフセット)を可能にしています。

ボランタリー・クレジット市場の規模は、現在、4億ドルに留まりますが、2050年には最大4,800億ドルに拡大することが予想されています4。これは、「パリ協定」の目標のほぼ5分の1に当たり、二酸化炭素換算ベースで年間3.6ギガトン、の吸収に相当します。

ボランタリー・クレジット市場におけるクレジットの平均価格は、現在のところ、二酸化炭素換算ベースで、1トン当たり4~5米ドルですが、産業界の試算からは、2050年までに140米ドルに上昇する可能性も示唆されます。

ボランタリー・クレジット市場では、少なくとも短期的には、土地の使用に関連する技術のクレジットに集中した取引が予想されます。植林、再生林、森林管理の改善等は、いずれも、低コストで導入が容易だからです。一方、中長期的には、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)等の新しい技術に係る取引が拡大することが予想されますが、普及には時間がかかるだろう、とアドバイザリー・ボードは予想しています。

もっとも、ボランタリー・クレジット市場を発展軌道に乗せるには、特に、相殺(オフセット)の仕組み等、透明性の改善が必要です。

 

 例えば、植林を通じて創出されたカーボン・クレジットを購入する企業は、排出量が即時に相殺されることを期待すべきではありません。大気中に炭素が排出された時点と森林が排出を吸収する時点との時間のずれが何等かの方法で反映されるべきだからです。

 

「ネガティブ・エミッション技術(NET)は、経済のより持続可能な基盤を整備するために設計された各種の炭素削減手段の一つとして使われるべきです。」

 

難局打開の切り札

炭素排出量を相殺する技術に対する関心は増す一方ですが、市場の発展は、哲学的に厄介な課題を浮き彫りにしています。こうした技術が炭素削減手法の選択肢に加えられるとしたら、排出の元々の原因となる経済活動の根絶には殆ど役立たないからです。

ネガティブ・エミッション技術(NET)は、排出量削減のための取り組みの回避または先送りを可能とするような、炭素排出企業にとっての「難局打開の切り札」として使われるべきではない、とアドバイザリー・ボードのメンバーは述べています。

 ネガティブ・エミッション技術(NET)は、「経済のより持続可能な基盤を整備するために設計された各種の炭素削減手段の一つとして使われるべきだからです。」

                                                                                                                                                                                                                                          

[1] クライム・アクション・トラッカー(環境NGO団体)

[2] https://www.microsoft.com/en-us/corporate-responsibility/sustainability/carbon-removal program

[3] マッキンゼー・アンド・カンパニー

[4] https://www.ucl.ac.uk/global-governance/news/2021/jan/reforming-global-voluntary-market-carbonoffsets

[5] ロンドン大学/トローブ・リサーチ及びマッキンゼー・アンド・カンパニー

                                                                                                                                                                                                                          

※当資料はピクテ・グループの海外拠点が作成したレポートをピクテ投信投資顧問が翻訳・編集したものです。

                                                                             

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