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生物多様性~投資家はなぜ関心を持つべきなのか?~
2022/10/31

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概要

企業や投資家は、生物多様性の喪失が人類の繁栄と経済成長にもたらす脅威を、あまりにも長い間、軽視してきました。今こそ、自然を修復し、経済をより持続的な基盤に載せるための取り組みを強化すべきだと考えます。



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目次

01 序章

02 自然の価格付け:生態系サービス

03 政策変更ならびに企業および投資家が直面する新しいリスク

04 生物多様性ファイナンス

05 結論:自然にプラスの影響をもたらす金融制度の設計

06 付録:生物多様性の再生のためのフィンバイオ・リサーチ・プログラム

                                                                                                                                                                                                                                         

01 序章

人類は、この30年で、過去数世紀分を合わせて余りある繁栄を遂げました。

かつてないほど多くの道路や建物や機械が造られました。また、寿命が延びて健康的な生活を送る人が増え、教育を受ける環境も改善されています。一人当たり平均GDP(国内総生産)は、1820年以降、約15倍に拡大しており、15歳の誕生日を迎えることが出来た新生児は、19世紀には3人に1人に過ぎなかったのに対して、今では、95%を上回っています1

一方、人類の繁栄には大きな代償が伴いました。人類の繁栄に連れて、自然が損なわれてきたからです。

人間は増え続ける人口を養うために、動植物の種を絶滅の危機に追いやり、生息地を破壊しています。また、ここ数十年を通じて、地球が12ヵ月で自然に復元出来る以上の自然資源を消費し、将来世代が利用出来るはずだった資源を減らしています2

こうした持続不可能な状況に終止符を打つには、人類の幸福や経済成長に生物圏がもたらす影響や恩恵についての理解を深める必要があります。政策立案者は、生物多様性の保全を地球温暖化の防止と同様に喫緊の課題であると考えています。

                                                                                                               

                                                                                                                                                                       

[1] ピクテグループ 

[2] グローバルフットプリントネットワーク(2003年に設立された国際的な非営利団体)

2022年12月にカナダのモントリオールで開催される、過去10年で最大規模の「国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)」は、2030年を期限とした、自然保護のための画期的な目標に対する合意の形成を目指しています。

もっとも、こうした取り組みは政治の場に限定されるべきではありません。金融業界も、従来以上に積極的な役割を果たす必要があるからです。金融業界はグローバル資本の管理者として、自然に逆らわず自然と共存する経済の構築に貢献できる特異な立場に置かれています。

金融業界は企業にまわす資金の配分手法を変え、生物多様性に係るリスクと機会をより正確に評価する新しいモデルを開発することによって、自然にプラスの影響をもたらす経済への移行を促進することが可能です。

金融業界が、革新的な環境技術やサービスの開発を手掛ける企業への資金提供を通じて、エネルギー利用、農業、貿易、輸送等、あらゆる分野の効率化に貢献してきたことは注目に値します。

一例を挙げると、アグリテック(最先端技術を駆使する農業)の発展のお陰で、世界の穀物生産高は、1961年当時の約3倍に増えています。

穀物の平均収穫率は人口増加率を上回っていますが、主流の投資の多くは、意識して、あるいは無意識のうちに、環境や社会に悪影響を及ぼす既存の経済活動に資金を配分しています。

金融業界は自然の修復を促進しつつ、悪影響を抑えるためのグローバルな取り組みに、これまで以上の影響力を行使するべきです。

ピクテは、このような状況を背景に、自然資本を保護し、生物多様性の喪失を阻止するための戦略を策定しようと尽力する金融業界を支援するため、活動期間を4年に限定した新しい世界規模のリサーチ・プログラムの創設パートナーとなることを決断しました。

ストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・センターが統括する「生物多様性の再生のためのファイナンス・プログラム」(フィンバイオ・プログラム)は、生物多様性を犠牲にして成長に報いる現行の慣行を、自然にプラスの影響をもたらす事業特性を正確に捉え、それに経済価値を付与する新しいモデルに転換するための取り組みに尽力する金融業界に資する重要な研究の進展を目的としています。

                                                                                                                                                                                                                 

「フィンバイオ・プログラム」は、スウェーデン戦略環境研究財団(Mistra)の資金提供を受け、普段は交流の極めて少ない学術研究者や金融セクターのパートナー等、多様なメンバーで構成されるコンソーシアム(共同体)を結集することで、新しい分野の研究に着手します。

このコンソーシアムは、野心的な目標を掲げています。最初の目標は、生物多様性と自然資本に係るデータを、資産運用会社や資産の所有者が理解し、利用出来るような指標に変換することです。

二つ目の目標は、自然と相容れる新しい種類の有価証券の開発を促進するための金融の枠組みを策定し、生物多様性の目標と、真に持続可能な経済の構築を実現するための資金調達を可能にすることです。

銀行、資産運用会社、資産の所有者等からなる金融業界は、あまりにも長い間、生物多様性の喪失が人類の繁栄と発展に及ぼす脅威を、軽視してきました。今こそ、生物圏を修復し、経済をより持続的な基盤に載せるために自らが果たすべき重要な役割を認識しなければならないと考えます。

                                                                                                                                                                                                                                                             

02 自然の価格付け:生態系サービス

人類は経済発展を優先するあまり、自然界と生態系に甚大な被害を及ぼしてきましたが、今後数十年は、生物圏の劣化が、経済成長と人類の繁栄に直接的な影響を及ぼすことが予想されます。

                                                                                                                                                    

経済における自然の役割をどう説明するかが、現代に生きる私達にとって決定的に重要な課題となっています。経済発展と自然界の複雑な関係に係る理解を深め、最終的に、現在私達が無料で受けている生態系サービスに価値を付与する手法を見つけることが出来れば、真に持続可能な経済は実現可能だと考えます。

                                                                                                                                                                                                                                  

03 企業や投資家にとっての政策の変更と新たなリスク

2022年12 月に開催される COP15に出席を予定している政策立案者には、自然保護のための画期的な協定を締結することが期待されています。パリ協定型の新しい協定であるCOP15には、生物多様性の危機に対する取り組みを加速させ、資金の流れや投資ポートフォリオを自然にプラスの影響をもたらす目標と整合させることが求められます。

                                                                                                                                                                                             

                                                                                                                                                                          

生物多様性は気候変動と並ぶ喫緊の環境課題であることから、規制当局や政策立案者は、生物多様性に係る税制、許可、生物多様性オフセット等を導入し、自然資本をGDP等の経済統計に組み込んでいく公算が大きいと思われます。生物多様性の喪失が企業に及ぼす様々な脅威を理解することで、投資家は、こうしたリスクを正しく評価し、現行のESGの枠組みとの乖離を認識し、自然資本への新しい投資手法を見出していくものと考えます。

04 生物多様性ファイナンス

企業や投資家が生物多様性の喪失にどのような影響を与え、生物多様性からはどのような影響を受けているかについての理解を深めたとしても、生物多様性に係る資本の変革がなければ、努力は無駄に終わると考えます。

従来型の生物多様性ファイナンスには、自然の保全活動のための資金調達に重点を置く傾向が見られましたが、最近は、生物多様性投資や自然資本投資が着実に増加しており、生物多様性の喪失を最小限に抑えることや、長期的な資本形成の可能性に投資することを明確な目的とした有価証券が注目を集めています。この2年で、生物多様性の修復や生態系サービスに特化した企業を投資対象とする注目ファンドの設定が相次いでいます。2020年以降に設定された11ファンドのうち、9ファンドの運用資産総額は、2020 年年初の 5 億 2,500 万米ドルから 13 億米ドルに倍増しています。

「現行の食糧および土地利用の慣行を再生可能な手法に転換することで、生物多様性および自然市場は2030年までに4.5兆ドルを創出する可能性があると考えます。」

生物多様性や自然資本に投資するファンドは、農業、情報技術(IT)、漁業、素材、不動産、一般消費財・サービスおよび生活必需品、公益、医薬品等の業界を網羅するバリューチェーン全体に、より持続可能で再生可能な事業慣行を組み込む取り組みを支援することを目的としています。

経済協力開発機構(OECD)の試算によると、生物多様性の保護および自然資本に係る投資は年間1,000億ドル未満と、気候変動関連投資(6,320億ドル)と比べて微々たる金額に留まっています。

食品と土地の利用連合による報告書は、現行の食品と土地の利用を、再生可能で生産性の高い循環型の慣行に転換することで、新しいバリューチェーンとビジネスモデルが開拓出来ることを明らかにしています。当報告書には、このような変革により、2030年までに4.5兆ドル規模の生物多様性および自然資本市場が創出される可能性があるとの試算が掲載されています3

3出所:ブロードリッジ、およびピクテ・アセット・マネジメント(2022年7月31日時点)

                                                                                                                                                                                             

                                                                                                                                

05 結論:自然にプラスの影響をもたらす金融制度の設計

人類の繁栄は、1万年以上にわたって、食糧、清浄な空気、水、肥沃な土壌等、自然資本の蓄積を取り崩すことを中心に実現してきました。

ところが、自然資源は、ここ数十年、補充可能なペースを上回る速度で消費されています。

このように持続不可能な経済発展は、生態系に壊滅的な打撃を与え、将来にわたって経済成長と人類の幸福を脅かすリスクを伴っています。幸いなことは、生物多様性の喪失を抑えるために、政策立案者や規制当局の間で、法的拘束力のある新しい国際協定を締結しようという機運が高まっていることです。

協定の枠組みは、2022年12月に開催予定のCOP15モントリオール・サミットで合意に至る可能性が高いと考えられます。既に世界の数十ヵ国が、税制、手数料、課徴金、許可等を通じて、生物多様性の保護や自然資本の持続可能な利用を促すための特別報酬を企業に提供しています。従って、生物多様性に係る施策の導入は、向こう数年間、増え続けることが予想されます。

このような取り組みに更に弾みを付けているのが、2036年までに、自然資本と生態系サービスの価値を国民経済計算に含めようという米国の画期的な提案です。

経済に対する自然の寄与度を測定し、それに価値を与えようという政府や規制当局の試みは、著しい進歩を遂げています。

著名な経営コンサルタントであるピーター・ドラッカー氏は、「測定されたものは改善される」と述べていますが、政策立案者だけで流れを変えることは出来ません。

世界を持続可能な成長の軌道に乗せるためには、企業や金融セクターにも従来以上の貢献が求められます。

企業や投資家は、先ず、生物多様性の劣化が最終損益やポートフォリオにもたらすリスクを明確に理解する必要があります。

脅威は形のあるものだけに及ぶとは限りません。規制や法律の他、風評被害も脅威となるからです。

金融業界や投資家は、失われた自然資源を修復するために、従来以上に大きな貢献が出来るはずです。

自然資本市場を発展させることによって、自然環境を悪化させる事業やプロジェクトから、自然の再生を目標とする取り組みに資金の流れを変えることが可能です。

自然が常に経済の最も重要な資産だったということを金融業界が認識すべき時が来ているのです。

                                                                                                                                                                                                                                                                                        

06 付録:生物多様性の再生のためのフィンバイオ・リサーチ・プログラム

ガブリエル・ミシェリ

ピクテ・アセット・マネジメント テーマ株式チーム シニア・インベストメント・マネージャー

スティーブ・フリードマン

ピクテ・アセット・マネジメント テーマ株式チーム サステナビリティ・リサーチ・ヘッド

                                                                                                                                                                                                              

ピクテ・アセット・マネジメントは、自然資本の保護と生物多様性の喪失阻止のための戦略を策定する金融業界の支援を目的とし、活動期間を4年に限定した新しいグローバル・リサーチ・プログラムの創設メンバーです。

ストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・センターが統括する「生物多様性リサーチ・プログラム」は、生物多様性の目標に整合する投資や、自然にプラスの影響をもたらす経済への貢献を金融業界に促す新しい手法や指標の策定を目標としています。

スウェーデン戦略環境研究財団(Mistra)の資金提供を受け、活動期間を4年に限定した当プログラムには、国連責任投資原則(の署名機関)やスタンフォード大学等、民間セクターおよび学術界の共同体(コンソーシアム)が参加しています。また、生物多様性の価格付けに関連する倫理面や統治(ガバナンス)面の課題についても検討を行います。

過去の例や現在進行中の市場動向から学んだ教訓を総合的に勘案し、将来のリスクと機会を調査することも、課題の一部です。

具体的には、科学や金融の専門家であるコンソーシアム・メンバーと協力し、以下の分野に注力することを目指しています。

                                                  

・生物多様性の喪失を計測すると同時に、その他の経済的および財務的影響を測定するための新しい指標を開発し、データセットを作成すること

・生物多様性に係るリスクを、企業レベルおよびポートフォリオ・レベルの双方で測定すること

・ 企業との戦略的エンゲージメントに生物多様性を取り入れるため、測定可能かつ洗練された手法を開発すること

・ 生物多様性および生態系市場ならびにその他の自然に資する投資の将来性を評価すること

・ 自然資本を保護するための最も有望な技術、金融の仕組み、経済ツール等を特定すること

 

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