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世界のサプライチェーンをデジタル化する
2023/02/24

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概要

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、インフレ高進、労働力不足、ウクライナ紛争等の諸要因が相まって、世界貿易を支えるサプライチェーン(供給網)が混乱しています。企業はこうした状況を打開するため、最新技術を活用すべきだと考えます。



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2022年4月下旬、米国カリフォルニア州に拠点を置くハイテク大手企業が、サプライチェーン(供給網)を混乱させた様々な要因が、経営環境を悪化させているとして、翌四半期決算は最大80億ドルの損失を計上する可能性があるとの警告を発しました。同社の最高財務責任者(CFO)は、アナリストに対して「新型コロナウイルスの感染拡大による供給制約と、ハイテク業界全体を襲ったシリコンウエハー不足が深刻な影響を及ぼしており、弊社の製品に対する顧客の需要が満たせていない」と説明しています。最先端のグローバル・サプライチェーンを構築していることで知られる同社の警告が、「サプライチェーンの混乱はもはや既定路線であり、正常な状態に戻りたいとの希望は、当面、あきらめざるを得ない」という意味であることは、投資家にも明確に伝わりました。

                                                                                                                                                                                                                                                                

                                                                                                                                                                                                                                                                      

前例のない混乱

新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)に端を発し、ウクライナ紛争により状況が更に悪化した世界のサプライチェーンにおいて、前例のない混乱が、物価の高騰と食料危機や燃料危機を引き起こしました。ニューヨーク連邦準備銀行が商品の需要と供給力を測るため、近年、考案・開発した「グローバル・サプライチェーン圧力指数(GSCPI)」は、世界のサプライチェーンにかかる圧力が、歴史的高水準で安定し始めたことを示唆しています。こうした状況は、グローバル企業を根底から揺るがすものであり、中国以外の生産拠点を探すことや在庫を増やすことの相対的な利点、常態化する労働力不足対応等、深刻な課題を提起しています。

ピクテ・ウェルスマネジメント、CIO オフィス・アンド・マクロリサーチ部門でヘッドを務めるアレクサンドル・タヴァッチは、「過去 20 年間、国際経済を定義していたグローバル・サプライチェーン上に築かれた世界は、もはや存在しません。今や、単一の供給源に依存し過ぎると業務リスクにさらされますが、企業にはそんなリスクを取る余裕などないはずです」と述べています。

 

「コンサルティング大手のアクセンチュアによると、2020年の早い時期に新型コロナウイルスが流行し始めてから、フォーチュン 1000社の94%にサプライチェーンの問題が発生したとのことです。」

 

次世代の技術

危機的状況が、世界中の企業にビジネスモデルの見直しと、更なる混乱を回避するための技術革新への投資を促しています。タヴァッチによれば、次世代技術は中長期的な生産性の改善をもたらす可能性も秘めています。

「私達は、今、サプライチェーン全体に使われる自動化と技術革新のプロセス時代の幕開けを迎えようとしています。危機とは、通常、機会を創出するものですが、企業はそうした機会を活用しなければならないことを認識しています。」

ロボティクス(ロボット工学)

新しいテクノロジーの波の一つがロボティクス(ロボット工学)です。例えば、都市封鎖と、その結果としての労働力不足がサプライチェーンを混乱させた中国では、人手不足を解消するため、製造企業がロボットを中心とする自動化技術に多額の投資を行っています。

中国最大級の家電メーカーは、2021年、生産施設の技術向上に投資する、3ヵ年計画を開始しました。同社の役員は、センサーやロボットの使用を増やすことで、工場現場の効率を15~20%増すことができるだろうと述べています。

 

「ロボットの出荷台数は2020年の38万4,000台から、2024年には51万8,000台に増加することが予想されています。」

 

工場の自動化は世界各地で急増しており、産業用ロボットの出荷台数は、2020年の38万4,000台から、2024年には51万8,000台に増加することが予想されています。また、産業用自動化市場の規模は、2021年の1,404億ドルから、2028年には2,339億ドルに拡大するとの分析結果も公表されています。

一方、米国自動化推進協会によると、2021年には過去最多のロボットが国内労働市場に投入され、企業はほぼ4万台のロボットに、2020年比+28%の20億ドル強を費やしました。米国の産業用ロボットの大半は、従来、自動車業界向けだったのですが、2021年には、国内ロボット売上の約58%が自動車以外の業界向けとなっており、ロボットの産業横断的な普及を示唆しています。

                                                                                                                                                                 

                                                                                                                                                            

ブロックチェーン

海運業界も、サプライチェーン管理の技術面の改善が顕著な業界の一つです。かつての定期航路運航は、ここ数年、混乱をきたしているとはいえ、貨物量の90%は目的地まで海上輸送されます。港の混乱状況や、作業員およびコンテナ不足が解消されない状況では、到着予定時刻の遅れが、世界平均で2018年および2019年の4日弱から、2022年5月には6日強に延びています。そのため、輸入業者は船が入港するまで輸送状況がほとんどわからなく、コストの上昇や不確実性の増大という形で様々な問題を引き起こします。

海運会社はブロックチェーン等の技術を利用することで顧客が被る悪影響を軽減し、運送状況の可視性を改善、最終的に効率性を向上させることが可能だと、タヴァッチは説明しています。

これを実践しているのが、世界最大級の海運会社です。同社は、テクノロジー企業との提携を通じてブロックチェーンを活用した、オープン・インダストリー・プラットフォームを構築した結果、企業、サプライヤー、顧客のすべてがリアルタイムの出荷データを受け取ることが出来るようになった上、サプライチェーン上のコミュニケーションや出荷管理も改善されています。

 

「世界のeコマース企業の半数が、2023年までにリアルタイムのサプライチェーン・ソリューション、AI、高度な解析能力等に投資します。」

 

ロボット工学とブロックチェーンを補完する人工知能(AI)は、新しいサプライチェーン・モデルの要になると考えられます。新型コロナウイルスのパンデミックによる混乱で、在庫の積み増しを余儀なくされたヘルスケア業界では、AIが複数の配送センターで製品全体の最適な在庫配分を確立し、在庫管理コストの削減に貢献しています。

調査会社のガートナーは、世界のeコマース企業の半数が、2023年までにリアルタイムのサプライチェーン・ソリューション、AI、高度な解析能力等に投資するものと予測しています。

タヴァッチはこうした移行が投資の好機をもたらすのは、機動的なテクノロジー企業が出現してサプライチェーン危機の緩和に貢献するからだと述べる一方で、成果は一夜で得られるわけではないと警告しています。「サプライチェーンを見直すこととは、一回限りの対策を講じることではなく、時間のかかるプロセスを実行することです。進むべき方向を企業レベルで見出すことは容易ではありませんが、私達は、少なくとも、どちらの方向に向かうべきかを理解しています。」

 

 

本稿はフィナンシャル・タイムズ社との提携により執筆されました。

                                                                                                                                                                        

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