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人工知能(AI)は、サイバーセキュリティ業界をどのように作り変えるか?
2023/11/14

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概要

人工知能(AI)が、サイバーセキュリティ業界にどのような変化をもたらすかについて、ピクテ・アセット・マネジメントのテーマ株式運用チームのシニア・インベストメント・マネージャー、イヴ・クレーマーが語ります。



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AIにより、サイバー攻撃はより深刻な問題に

サイバーセキュリティ業界は、既に、活力に満ちた業界であり、投資家にとっては魅力あると考えられますが、人工知能(AI)が、先行きをさらに改善すると考えます。


謎の遺産を分割したいという趣旨のスペリングの間違いの多いメールを受け取ったとしたら、何か怪しいと思うはずですが、受け取ったのが、会社の人事部が送信元と思われる文書や、何かを訴えるあなたの子供からのボイスメールだったとしたらどうでしょう?サイバー攻撃は、AIを使って巧妙さを増し、検知するのがますます難しくなっています。サイバーセキュリティ業界には極めて困難な状況ですが、一方、AIの力を活用することができるサイバーセキュリティ企業にとってはまたとない好機が呈されています。

サイバー攻撃は、既に、深刻な問題になっています。IT分野に特化したある調査機関では、サイバーセキュリティ業界の今年(2023年)の成長率は14%に達すると予測していますが、この成長率に意外感はないとみています。AIの普及が進めば、成長率は、加速度を増す可能性もあると考えます。

サイバー攻撃が規模と強度を増していることから、AIが様々な業界のサイバーセキュリティ投資を増加させる一因になることは確実のように思われます。



新型のAIの威力を増す大規模言語モデル(LLM)によって、プログラミングは従来よりも遥かに容易になりますが、これはマルウェアも容易かつ迅速に作成できることを意味します。ハッカー予備軍は、技術的なスキルを持っていなくても、過去の攻撃がどのように行われたかの詳細を入手するようAIに指示し、それによって入手した情報を基に、過去の攻撃と同じような攻撃を行うことも可能になります。

不特定多数宛に一斉送付された、言い回しの下手なショート・メッセージやPDFファイルに代わって、マルウェアを使って、特定の人物を標的にした個人的な情報を含む偽メール(スピア・フィッシング)が増え始めています。

生成人工知能(生成AI)は偽情報の範囲を広げており、ハッカーが、入手した情報を選別してデータの隙間を埋める(欠落していたデータを入手する)ことを容易にします。また、攻撃を受けた被害者のAIモデルを自分の都合のよいように操作することで、攻撃の痕跡を消したり、攻撃を永遠に続ける可能性もありそうです。 

こうした攻撃は、個人に限らず、企業や政府も危険に晒す可能性があり、攻撃の影響が及ぶ範囲はデータ以外にも広がっています。従って、例えば、自動運転車あるいは半自動運転車の利用が増すに連れて、輸送の安全が危険に晒される可能性も考えられます。

AIがもたらすリスクが、サイバーセキュリティ業界の成長につながる可能性

AIがもたらすリスクは、実際のサイバー攻撃で終わるわけではありません。多くの企業幹部は、データ・プライバシー規制の遵守や、AIが作成したコンテンツの知的財産権が及ぶ範囲についても懸念しており、従って、投資に際して、データセキュリティやガバナンス・ソリューション分野が優先されている模様です。 

ある調査によれば、多くの企業が経済的損失を被る恐れを主な理由に挙げて、今年(2023年)のサイバーセキュリティおよび情報セキュリティ投資を、前年比で増額する計画であることも示されています。

サイバーセキュリティ投資が増える状況は、セキュリティ業界と投資家の双方に好機をもたらしていると思われます。サイバー攻撃に対する防御システム(デジタル・ディフェンス)の構築にAIを活用することができるサイバーセキュリティ企業は、今後数年を通じて、高成長を遂げることが見込まれますが、とりわけ、データセンター運営企業など、デジタル・インフラを提供する企業が注目されます。

データセンター運営企業であるエクイニクス(米国)は、つながる機器(コネクテッド製品)とAIの普及に伴って、生成されるデータが増え続けることを理解しています。データの保管と移転には安全性の確保が必須であり、従って、安全なインフラ(基盤)に対する需要が増すことは確実です。エクイニクスは、機械学習を活用して、同社のデータセンターの潜在的な脆弱性を特定し、それを排除することで、安全性の改善を図っています(例えば、データセンター内部およびその周辺で起こったあらゆる不審な動きをビデオ映像から分析することや、顧客がどのようにデータにアクセスしているかを監視し、異常を検知・警告する、など)。

AIの存在感が増すサイバーセキュリティ業界では、特殊なセキュリティ・ソフトウェア・アプリケーションの開発や関連サービスの提供を通じて、優位に立つことも可能になるでしょう。例えば、クラウドストライク・ホールディングス(米国)は、(サブスクリプション型のサイバーセキュリティ・ソリューションである)ファルコン・プラットフォームの新しいモデュールにAIを搭載するために、膨大なデータとテレメトリー(障害検知やパフォーマンス分析のための遠隔地からのデータ収集技術)を活用しています。大企業に定評のあるファルコンは、企業のコンピューター・システムを狙ったサイバー攻撃を早期に検知するよう設計されています。同様に、独立系サイバーセキュリティ最大手のパロアルトネットワークス(米国)は、様々なクラウド・ソリューションやAIを活用したソリューションを提供しています。また、輸送の安全性を確保するための、自動運転車用の安全なソフトウェア市場も拡大を続けています。

AIは、サイバーセキュリティ業界に新たなサブ・セクターを生み出す可能性もありそうです。例えば、AIが生成する情報を取り締まるための新しい市場です。身元確認のための新しい手法も必要になると考えます。こうした状況は、革新的なスタートアップ企業に門戸を開くと同時に、既存のサイバーセキュリティ企業には、成長の機会を提供する可能性があると考えます。サイバーセキュリティ業界にとっての課題は、広範囲を網羅して迅速にマルウェアを認識するために、生成AIを組み込んだ新世代型サイバーセキュリティ・ツールを開発することです。サイバーセキュリティの支援ツールとしてのAIへの依存度を強めることは、業界のスキル不足を勘案すると、いっそう重要になると考えられます。

AIなど最先端の技術を十分に生かすことができるサイバーセキュリティ企業に注目

また、サイバーセキュリティ業界の販売戦略上の優先度が変わることによって、当業界にとってのAIの重要性も増しています。

サイバーセキュリティ業界は、ここ数年で転換期を迎えています。サイバーセキュリティ製品の重要な対象は、デスクトップ、ラップトップ、モバイル製品等の端末機器から、組織のネットワーク全体やクラウド事業へと変化しています。後者は、AIによって特にサイバーセキュリティ・リスクが高まるとみられる領域です。

このため、サイバーセキュリティ各社は、あらゆるアクセスは「信頼できない(=ゼロトラスト)」ものとして捉え、すべてのアクセスに対して必ずその正当性や信頼性を確認するという「ゼロトラスト」セキュリティ・ソリューションの開発を進めています。

AIと機械学習の進化によって、政府、企業、個人におけるサイバーセキュリティ・サービス需要は、長期的に増加していく可能性があるとみています。セキュリティ・オペレーション・センターではデータ分析に伴う反復作業の多くが自動化されており、AIを搭載したセキュリティ・ソリューションが、セキュリティ関連投資の増加を促すきっかけとなることが期待されます。そうすれば、現在、約340万人と推定されるサイバーセキュリティ業界の世界的な人材不足の軽減にも資すると考えられます。

こうした状況は、いずれも、サイバーセキュリティ業界の潜在的な成長性を高めるものと思われます。現在、使われているコネクテッド機器は、世界全体でおよそ150億個ともいわれていますが、10年後にはこれが倍増するものと予想されています。こうした中で、ネットワークにつながるすべての機器が、サイバー攻撃から保護される必要があります。サイバーセキュリティ企業の中でも、AIなど最先端の技術を十分に生かすことができる企業が、大きく恩恵を受ける可能性があるとみています。


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