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COP15~企業と投資家にとっての転機
2023/01/30

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概要

国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、情報開示の改善と投資の拡大を通じて生物多様性の保全に従来以上に取り組むことを、企業と投資家に促した画期的な会議となりました。



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国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、自然界を守るための重要な転換点となりました。

世界の約200ヶ国が署名した「生物多様性枠組(GBF)」は、生物圏の保全を目標とする活動への投資を促進するものであり、企業には自然に係るリスクを定期的に評価し、開示することを求めています。

GBF協定は2030年までに生物多様性の喪失を阻止し、2050年までに回復・復元するという野心的な目標を掲げています。

パリ協定が気候変動に大きな影響を及ぼしたように、GBF協定は、環境保護活動を一変させるような効果をもたらす可能性があると考えます。

パリ協定は、目標の実現に大きな課題を残しているものの、資金の流れや投資ポートフォリオを気候変動目標に整合させることに成功し、数千億ドル規模の新規投資をもたらしました。

GBF協定の主な項目には、土地と水の保全を強化し、汚染を減らし、様々な政策に生物多様性への配慮を組み込むことの他、2020年代末までに有害な補助金を削減し、生物多様性の保護を目標とする企画への資金提供を誓約することが含まれます。

地球を守るためには、温室効果ガスのネット・ゼロ以外にも課題が山積しているという事実を、GBFが政府や企業、投資家に警告していることは極めて重要です。気候変動の阻止や生物圏の修復は、関係者の協働が求められる困難な課題です。

国別の目標が設定されていないことや法的拘束力がないことなど、GBF協定に問題がないわけではありませんが、企業や投資家が生物多様性を無視し続けることは、もはや不可能であるということを明確にするには十分強力な内容です。

GBF協定のターゲット15(行動目標15)は、おそらく企業や投資家に最も関連のある目標でしょう。大企業や金融機関に、生物多様性に及ぼす影響や、生物多様性の喪失によって直面するリスクの監視、および開示を求めています1

重要なのは、ターゲット15が事業のバリューチェーン(価値連鎖)全体に適用され、金融機関の場合には、投資ポートフォリオに適用されるということです。

ターゲット14も重要です。官民の資金フローをGBF協定の目標に整合させることを義務付けることで、金融セクターの活動の強化に資すると考えられるからです。

以上の二つの目標は、環境政策の発展の過程における重要なステップです。測定が可能であり、定期的な監視、報告、見直しが要求されるからです。

 

「温室効果ガスのネット・ゼロ以外にも課題は山積しています。気候変動の阻止や生物圏の修復は、関係者の協働が求められる困難な課題です。」

 

■ 生物多様性の開示:新しい規範

企業による生物多様性リスクの開示が新しい業務規範となる日は遠くないように思われます。

総額20兆ドルの資産を有する民間企業や金融機関が設立した「自然関連情報開示タスクフォース(TNFD)」は、淡水ならびに海洋および陸地の生態系の利用から、水質汚染、生物学的撹乱に至る広範な項目を網羅した新しい企業開示の枠組みを2023年末までに発表する予定です。

一方、企業の持続可能性開示に係る国際基準の設定機関である「国際サスティナビリティ基準審議会(ISSB)」は、2023年の早い時期に、生物多様性を気候変動リスク報告規則に追加する予定です。情報開示が改善されれば、投資家は企業が直面する自然関連リスクをより適切に評価することが出来ると考えます。

自然関連リスクは、以下の3つに大別されます。

    ・ 移行リスク: 規制、座礁資産および消費者の嗜好の変化に起因して生じるコスト

    ・ 物理的リスク:生物多様性の喪失および生態系の機能喪失に起因して企業に及ぶ財務的影響

    ・ 法的リスク:生物多様性の喪失および法的違反に関連する訴訟および各種の賠償請求

 

■ 資金不足の解消

生物多様性の保全の重要性が高まるにつれて、生態系サービスや自然資本に関連する新たな投資機会が生まれるものと考えます。

生物多様性にプラスの成果をもたらすためには、持続可能なサプライチェーン(供給網)、気候関連商品および解決策、生物多様性オフセット、炭素市場等への投資を通じて、年間1兆ドル規模の資金が必要になりますが、足元の投資額は1,430億ドル前後に留まります2

GBF協定は、官民両セクターに対し、自然保護活動のために年間2,000億米ドル以上の資金を確保するよう求めています。生物多様性を保全するための投資額は大幅に上回りますが、資金不足を解消するには程遠い金額です。

近年、生物多様性や自然資本に関するファンドは着実に増加しており、生物多様性の喪失を最小限に抑えつつ長期的な資本形成の可能性に投資するとの明確な目標を掲げた企業が発行する株式や債券が注目されています。

生物多様性や自然資本に投資するファンドは、農業および漁業、素材、不動産、消費財、情報通信技術(IT)、公益、医薬品等の業界を網羅するバリューチェーン全体に、より持続可能で再生可能な事業慣行を組み込む試みを支援することを目的としています。

英国に本部を置くNGO、「食品と土地の利用連合(FOLU)」は、現行の食品と土地の利用を、再生可能で循環型の慣行に転換するための取り組みが、2030 年までに 4. 5 兆米ドル規模の生物多様性市場を創出する可能性があると試算しています3

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

ストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・センター教授、および「生物多様性の再生のためのミストラ・ファイナンス(フィンバイオ)リサーチ・プログラム」のプログラム・ディレクターを兼任する、ギャリー・ピーターソン氏の提言

昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)は、生物多様性喪失の間接的な要因である2つの重要な課題に対応し始めています。1つは、自然破壊を促進する補助金の撤廃および改革であり、もう1つは、グローバルベースの資金調達に対して提供するインセンティブの対象を、自然破壊につながる活動から、包括的な富を蓄積する自然を配慮した活動に転換するための取り組みです。

生物多様性の喪失を阻止し、生態系を回復するには、GBFが提案する以上の取り組みが必要です。

過去数十年にわたって行われてきた科学研究は、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学・政策プラットフォーム(IPBES)」が最近公表した「世界評価報告書」の概要に記載されている通り、生物多様性の喪失をもたらす間接的な社会的要因、特に、豊かな国による物質の使用と消費に起因する生物界の破壊に政策を通じた対応が必要であることを示唆しています。

一方、GBF協定には、破壊的な生産と消費の著しい不平等を是正するための目標が含まれていません。現状から利益を得る様々な既得権益者からの強い抵抗に打ち勝つことを必要とする不可欠かつ極めて困難な課題だからです。

GBF協定には、総じて、多くの関係者が期待していた以上の項目が含まれていますが、必要な項目が網羅されているわけではありません。協定は行動の枠組みを提供しています。足並を揃えた行動は望めなくとも、行動が加速度的に広がることが期待されます。

 

生物多様性の再生のためのミストラ・ファイナンス(フィンバイオ)リサーチ・プログラム

ピクテは、自然資本を保護し、生物多様性の喪失を阻止するための戦略の策定に取り組む金融業界を支援するために、活動期間を4年に限定して設立された、新しい世界規模のリサーチ・プログラムの創設時からのパートナーです。

スウェーデンのストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・センターが統括する「生物多様性のためのファイナンス・プログラム(フィンバイオ・プログラム)」は、投資活動を生物多様性の目標に整合させ、自然にプラスの影響をもたらすことに積極的に貢献する、金融業界を支援するための新しい手法や指標の開発を目標としています。

スウェーデン戦略環境研究財団(Mistra)の資金提供を受け、活動期間を4年に限定したプログラムは、国連責任投資原則(PRI)の署名機関やスタンフォード大学等、学術界や民間機関を結集したコンソーシアム(共同事業体)です。

「フィンバイオ・プログラム」は、生物多様性の価格付けに係る倫理面やガバナンス面の課題についても検討を行います。

過去および現行の市場の取り組みから学んだ教訓を総合し、未来のリスクと投資の機会を探ることも目標の一つです。

 

 

 

[1]https://www.cbd.int/article/cop15-cbd-press-release-final-19dec2022
[2] https://www.nature.org/en-us/what-we-do/our-insights/perspectives/closing-nature-finance-gap-cbd/
[3] Food and Land Use Coalition, September 2019
 https://www.foodandlandusecoalition.org/wp-content/uploads/2019/09/FOLU-GrowingBetter-GlobalReport.pdf

 

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