Article Title
やや無理があったイタリア連立政権に解消懸念
梅澤 利文
2019/08/09

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

イタリア連立政権の先行きの不透明感を受け8日の伊国債市場で10年国債利回りは0.1%を越える利回り幅の上昇が見られました。もっとも、世界的な金融緩和による利回りの低下傾向は、政局不安のイタリアであっても今のところ変化は見られません。



Article Body Text

イタリア連立政権:同盟のサルビーニ伊副首相の選挙呼び掛けで連立政権維持に疑問

イタリア政党同盟を率いるサルビーニ副首相は2019年8月8日、連立政権はもはや議会で過半数の支持を得ていないと述べ解散総選挙の「速やかな」実施を求めました。

総選挙は、ポピュリスト連立政権を担う同盟のサルビーニ氏が、反エスタブリッシュメント(既存勢力)を掲げる政党「五つ星運動」との連立を解消する意向を表明したもので、政局の不透明感を受け、イタリア国債利回りは上昇(価格は下落)しました(図表1参照)。

 

 

どこに注目すべきか:イタリア、連立政権、信任投票、総選挙

イタリア連立政権の先行きの不透明感を受け8日の伊国債市場で10年国債利回りは0.1%を越える利回り幅の上昇が見られました。もっとも、世界的な金融緩和による利回りの低下傾向は、政局不安のイタリアであっても今のところ極端な変化は見られません。

ただ、次の点について確認する必要があると思われます。
やや情報が錯綜している点もありますが、まずサルビーニ副首相は声明で、議会の解散と総選挙の実施を求めています。

同盟と五つ星運動の連立政権は発足して1年余りですが早くも、解消の危機に直面しています。
同盟が連立解消も辞さない方向へ舵を切り始めたきっかけは、同盟が推進するイタリアのトリノとフランスのリヨンを結ぶ高速鉄道計画に五つ星運動が反対し、イタリア上院で7日に五つ星が高速鉄道計画を阻止する動議を提出したためです。同計画は既に承認されていますが、サルビーニ副首相はこの採決を五つ星による侮辱的行動が浮き彫りになったと述べています。対立は根深いと見られます。

そもそも、右派政党の同盟と、左派の五つ星運動が結びついたのは、昨年のイタリアの総選挙で過半数を獲得する政党が無い中、第1党の五つ星運動と第2党の同盟が手を結んだという経緯です。路線に相違点も多く、連立に無理も見られます。そのような中、足元の支持率を見ると、同盟は移民政策への厳しい対応などから人気を集め、4割程度の支持率を獲得する一方、第1党の五つ星運動の支持率が低下傾向です(図表2参照)。同盟は個人と法人の成立の一律化(フラット税制:この税制による歳入不足から財政懸念もあるとされる)を目論むなど、財政政策を巡り左派の五つ星運動とは路線が異なります。同盟の政策の実現に連立解消が選択肢として浮上してきたと思われます。

なお日程をみると、イタリア議会は現在休会中で、信任投票の実施は来週以降、選挙は秋との見方が台頭しています。ただ政治的なイベントゆえ、日程は流動的です。
イタリア国債利回りは昨年後半に比べれば、世界的な利回り低下を背景に低下しています。しかし、わずか1年前には総選挙後の政治空白と、ポピュリスト連立政権の財政政策による欧州連合(EU)との対立などで利回りは高水準でした。仮に同盟単独政権となれば、イタリアで繰り返される不安定な連立政権運営からの脱却というプラス面は期待されますが、やはり当面は不透明感による変動が懸念されます。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議