Article Title
あのギリシャに、改善の兆し
梅澤 利文
2020/01/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

ギリシャの格上げを受け、ギリシャ10年国債の利回りが一時1.112%と、これまで過去最低だった19年11月の水準を下回りました。なお、大手格付け会社のギリシャの格付けはBBが最も高く、依然、投資不適格債となっています。しかし市場の評価は格付けから想定されるよりも、少し高いのかもしれません。



Article Body Text

ギリシャ格付け:フィッチがギリシャの財政状況などを評価して格上げ

フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2020年1月24日、ギリシャの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をBB-からBBに格上げしました。また、格付け見通しは強含み(ポジティブ)としています。

なお、その他の大手格付け会社では、ムーディーズ・インベスターズ・サービスがB1(B+に相当)とし、S&Pグローバル・レーティング(S&P)はBB-としています。なおS&Pはギリシャの格付け見通しを強含み(ポジティブ)としています。

 

 

どこに注目すべきか:格付け、プライマリーバランス、民営化、償還

ギリシャの格上げを受け、ギリシャ10年国債の利回りが一時1.112%と、これまで過去最低だった19年11月の水準を下回りました。なお、大手格付け会社のギリシャの格付けはBBが最も高く、依然、投資不適格債となっています。しかし市場の評価は格付けから想定されるよりも、少し高いのかもしれません。

中国を中心とした新型肺炎の感染拡大が懸念され、市場では株式や原油、ハイイールド債などのリスク資産への投資に手控えが見られます。例えば、投資不適格債の格付けを付与されている(欧州)企業で主に構成されるマークイットのiTraxxクロスオーバー指数はこの1週間で20bp近く上昇(信用悪化)しています(1bp=0.01%)。

これに対し、足元のギリシャ10年国債利回りはこの1週間で25bp程度低下(価格は上昇)しています。リスク資産とは異なる動きとなっています。ドイツ10年国債との利回り格差(スプレッド)は1.5%に近づいており、15年の第2次ギリシャ債務危機当時(18%程度)に比べ、大幅に改善しています。

フィッチの格上げ理由を参照して、ギリシャの改善点を簡単に振り返ります。

ギリシャは欧州連合(EU)のハードルの高い財政運営を受けいれたこともあり、プライマリーバランス(国債発行に頼らず税金で必要な歳出をまかなうイメージ)は19年がGDP(国内総生産)対比で約4%とフィッチは見込んでいます。これはEUが設定したターゲット(3.5%の黒字)を上回り、仮に実現すれば4年連続でEUのターゲットを越えることになります。

財政緊縮だけでなく、ギリシャの成長戦略により経済成長率も、失業率の低下と共に、2%前後での推移となっています(図表2参照)。リーマンショックよりも影響が大きかった成長率の下落を克服しつつあります。昨年発足した中道右派のミツォタキス政権は法人税の引き下げで投資を呼び込み、左派政権で停滞していた民営化も、前向きに進めています。

ギリシャの債務残高対GDP比率は18年の約181%から21年には161%まで低下すると見込まれていますが、水準は高いままです。プライマリーバランスが黒字とはいえ、残高削減は簡単ではないようです。ただ、ギリシャの債務の特色として、平均償還期限が約21年後ときわめて長く、当面の返済負担は重くないことも若干プラスに評価できそうです。

ただし、ギリシャのネット対外負債は対GDP比率で123%と警戒水準であること、経常赤字が続いていることなど投資不適格債であり続ける重い課題も相当残されています。ギリシャの課題克服に向けた対応を見守っています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議