Article Title
新型コロナウイルス感染拡大が続くインドの対応と懸念
梅澤 利文
2020/05/26

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米ジョンズ・ホプキンス大によると、インドの新型コロナウイルス累計感染者数は26日現在で14万4950人と8万人台の中国を上回り、アジアで最大となっています。都市封鎖も概ね継続中で景気への深刻な影響が懸念されます。そうした中、インドは金融、財政政策を総動員で対応しています。ただ、今後の課題ながら政策の後始末には注意も必要と思われます。



Article Body Text

インド準備銀行:緊急の金融政策決定会合を開催、政策金利を引き下げ

インド準備銀行(中央銀行)は2020年5月22日に、本来は6月5日に予定されていた金融政策決定会合を前倒しで開催し、政策金利を0.4%引き下げ、過去最低の4.00%とすると共に(図表1参照)、融資の返済猶予を公表しました。

なお、インド中銀のダス総裁は記者会見で20年度(20年4月~21年3月)のGDP(国内総生産)成長率はマイナスになるとの予測を示しました。またインフレ率については原油価格の下落がインフレ抑制要因で、年末までに4.0%を下回る水準まで減速するという見方を示しました(図表2参照)。

 

 

新規感染者数、都市封鎖、利下げ、返済猶予

米ジョンズ・ホプキンス大によると、インドの新型コロナウイルス累計感染者数は26日現在で14万4950人と8万人台の中国を上回り、アジアで最大となっています。都市封鎖も概ね継続中で景気への深刻な影響が懸念されます。そうした中、インドは金融、財政政策を総動員で対応しています。ただ、今後の課題ながら政策の後始末には注意も必要と思われます。

まず、インドの新型コロナウイルスに関連する動向を簡単に振り返ります。累積感染者に加え、新規感染者数も足元6000人以上と増加傾向です。一部先進国や中国のような感染拡大の収束とは異なる局面です。インドは全国的な都市封鎖を、感染者数が600人程度であった3月25日に開始し、何度か解除が延期されたあと(図表1参照)、5月17日に全面解除が予定されていましたが、結局一部緩和された地域を除き都市部は5月末まで継続するとしています。

インドの経済指標を見ると、19年10-12月期GDP成長率は前年比4.7%ですが、5月末公表予定の1-3月期GDPは1.2%への低下が市場で予想されています。都市封鎖による景気悪化は4-6月期に本格化すると見られ、インド中銀が示唆したように、20年度のマイナス成長が懸念されます。

インフレ率はインド中銀の指摘どおり低下傾向です。消費者物価指数(CPI)を押し上げてきた天候不順による食料品価格は、既に下落に転じ、原油価格の下押しも期待されます。なお、5月12日に公表予定であった4月のCPIはデータ不十分として公表が見送られている点には注意が必要です。

このような経緯を踏まえ、インドでは、GDPの10%に相当する規模の経済対策(財政政策)が公表され、またインド中銀は緊急利下げなど景気支援の姿勢を示しました。問題点を端的に指摘すると、まずモディ首相が公表した財政政策には、政府とインド準備銀行(中央銀行)がすでに公表した措置を含んだ数字ながら、歳入減少で財政赤字拡大が懸念される内容に市場の失望も見られます。財政政策はコロナ対策の要だけに一段の工夫が求められそうです。

金融政策では利下げと共に、一部融資を対象に融資返済の猶予を認める期間が延長されました。これは本来なら不良債権(返済期限から90日)に分類されるべき返済の遅れた融資が「見逃される」という意味に他なりません。今は便利な政策ですが、どこかで帳尻を合わせる必要があるでしょう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆