Article Title
ジャクソンホールのプレビュー、何が注目なのか
梅澤 利文
2020/08/27

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中央銀行のトップらが集まるジャクソンホール会議は、通常8月後半に開催され、過去、参加者から金融政策変更が示唆されたこともあり注目のイベントです。今回はオンライン形式であることが話題ですが、大切なのは中身です。特に注目されるのはパウエル議長の冒頭講演です。市場の一部には新たな金融緩和策を期待する声もありますが、まずは現状を整理します。



Article Body Text

ジャクソンホール会議:新型コロナウイルス の影響で、オンライン形式で開催

カンザスシティ地区連銀が主催する年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)が2020年8月27、28両日に開催されます。今年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けた影響でオンラインでの開催となり、一般にもライブ配信することとなっています。

米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「今後10年の進路:金融政策に対する意味合い」をテーマに8月27日にスピーチが予定されています。

どこに注目すべきか: ジャクソンホール会議、コアPCE、政策枠組み

中央銀行のトップらが集まるジャクソンホール会議は、通常8月後半に開催され、過去、参加者から金融政策変更が示唆されたこともあり注目のイベントです。今回はオンライン形式であることが話題ですが、大切なのは中身です。特に注目されるのはパウエル議長の冒頭講演です。市場の一部には新たな金融緩和策を期待する声もありますが、まずは現状を整理します。

パウエル議長の講演で注目されるのは、米連邦公開市場委員会(FOMC)でも取り上げられている金融政策戦略の枠組みの見直し、現在の金融政策を変更もしくは強化するかなどです。

まず、金融政策の枠組みについての注目点はインフレ目標の取り扱いと見られます。FRBが現在の2%の物価目標を正式に採用したのは2012年です。FRBがインフレ率の尺度として重視しているPCE(個人支出)価格指数のコア(食糧やエネルギーなどを除外)と、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の推移を見ると(図表1参照)、金融政策の転換点とコアPCEの動向に関連が見られます。

FRBの説明では、2%の意味は2%を中心として上下に対称的となっています。しかし、前回の利上げ局面を思い起こしても、2%をあたかも上限と捉える動きが市場に見られます。パウエル議長がインフレ率目標に対する解釈の明確化と、それに伴う長期的な金融政策の運営方針を言及するかに注目しています。

前回の利上げ局面で、当時のイエレン議長は金融政策の正常化の姿は政策金利の上げ下げで運営することが望ましいと述べていました(17年9月のFOMCなど)。しかし最近のFRB高官の発言などから、超低金利政策は相当長期化することを覚悟しているようです。この現実を踏まえた金融政策の枠組みについての考えが述べられるかにも注目しています。

次に、現在の金融政策の強化が示唆されるかについても市場で注目されています。例えば、マイナス金利やイールドカーブコントロール戦略の導入です。金融政策の選択肢が現実的に狭まっている中、これら新規の戦略が期待されるのはもっともではありますが、19日に発表されたFOMC議事要旨(7月28,29日開催分)などから判断して導入に消極的と思われます。マイナス金利など副作用が懸念される政策を予告無く導入するとは考え難く、少なくとも現時点で導入の可能性は低いように思われます。ただ、金融政策の選択肢が限られる中で、将来的に金融緩和を強化する手段として、何らかの示唆があるのかには注目しています。

現在の金融政策では、将来の金融政策の方針を示すフォワードガイダンスを評価する声はFRBでも根強く、その強化が見込まれています。ただ、市場では既に長期的な低金利を織り込んでおり、少々の手直し程度なら失望を誘う懸念さえあります。さりとて、現在機能していると評価しているフォワードガイダンスを強化するアイデアは見えてこないのも現状です。案外、しばらくは現状維持ということに落ち着くのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが

ECB、6月の利下げ開始の可能性を示唆

米3月CPIを受け、利下げ開始見通し後ずれ

インド、総選挙とインド中銀の微妙な関係

米3月雇用統計、雇用の強さと賃金の弱さの不思議