Article Title
新興国通貨の動向:リラが上昇に転じた背景
梅澤 利文
2020/11/18

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

トルコリラが11月10日前後から上昇に転じる兆しを見せています。高インフレ率などトルコの深刻な経済環境に改善は見当たりません。外部要因として、新型コロナのワクチン開発進展期待が高まったことはプラス要因ですが、これだけでは不十分でしょう。やはり、トルコ中銀などに関連する組織変更が大きな要因と思われます。



Article Body Text

トルコ中央銀行:金融政策決定会合を前に市場予想は大幅な利上げを見込む

トルコ中央銀行は2020年11月19日に金融政策会合の開催を予定しています。市場予想では政策金利を10.25%から15.00%に引き上げると見込まれています(図表1参照)。

トルコの通貨リラは一時節目と見られていた1ドル=8.0リラを割り込むなど深刻なリラ安となっていましたが、今月になり上昇に転じています。

 

 

 

どこに注目すべきか:中銀総裁更迭、物価重視、エルドアン大統領

トルコリラが11月10日前後から上昇に転じる兆しを見せています。高インフレ率などトルコの深刻な経済環境に改善は見当たりません。外部要因として、新型コロナのワクチン開発進展期待が高まったことはプラス要因ですが、これだけでは不十分でしょう。やはり、トルコ中銀などに関連する組織変更が大きな要因と思われます。

事の発端は11月7日のトルコ中銀総裁(ウイサル氏、当時)の更迭報道です(図表2参照)。正直に申し上げると、筆者はこの第一報を見て、リラはどこまで下がるんだろうかと不安を覚えました。

ところが、不思議なことに、リラは下落するどころかリラ高へと転じました。この背景を筆者が理解するために作成したのが図表2です。順を追って説明します。

11月7日の週末にウイサル(前)中銀総裁更迭と後任としてアーバル前財務相の就任が公表されました。なお、予断ですが、ウイサル氏は19年7月に、エルドアン大統領が当時のチェティンカヤ総裁を更迭したことで副総裁から昇格しています。似たようなことがまた起きたと、市場参加者の多くも感じたのではないかと思います。

しかしながら様相が異なっているのは8日のアルバイラク財務相の辞任です。アルバイラク氏はエルドアン大統領の女婿で、事実上の政権ナンバー2と見られていた人物です。地元紙などによると、エルドアン大統領の後継者候補とも噂されていたようです。

一方で、トルコ中銀総裁の後任に指名されたアーバル新総裁は、アルバイラク氏の政策には否定的であったといわれています。アルバイラク氏は財務相を健康上の理由で辞任していますが、額面通りに受け取られていないようです。

9日にはトルコ中銀のアーバル新総裁が声明で物価重視の姿勢を打ち出しました。また、格付け会社フィッチ・レーティングスはトルコ中銀総裁の交代が金融政策の信頼性を回復する可能性を指摘しています。

最後にエルドアン大統領です。義理の息子であるアルバイラク氏辞任の後任である新たな財務相(エルバン氏)と、アルバイラク氏に批判的であったアーバル新総裁を支持することや、物価の安定への理解を表明しました。市場は次回の金融政策会合での利上げ予想に確信を深めました。

中銀の独立性には疑問が残る総裁更迭ながらリラにとってプラス要因となりそうです。しかし深刻な対外流動性不足などトルコ経済の問題は根深く、今後も注意は必要と思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが

2月の米雇用統計は波乱材料とならず