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ECB事前予告どおりの政策からのメッセージ
梅澤 利文
2020/12/14

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概要

今回のECB政策理事会での追加金融緩和は、前回の理事会で実施が予告されていたこと、ECBのラガルド総裁らが講演などで金融政策の内容(PEPP主体)を示唆していたこともあり、市場の反応は限定的でした。あえて言えば小幅ながらユーロ高とドイツ国債利回りの上昇(価格は下落)が一時的に見られた背景を、政策の内容を振り返りながら考えます。



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ECB政策理事会:事前予告どおりに半年ぶりの追加金融緩和を公表

欧州中央銀行(ECB)は2020年12月10日に開催した政策理事会で、事前予告どおり追加金融緩和を決定しました。ただユーロ高に対する発言は従来どおりの内容にとどまりました。主な決定内容は新型コロナウイルス対応の資産購入特別枠(PEPP)を5000億ユーロ拡大(総額1.85兆ユーロ、現在は1.35兆ユーロ)です(図表1参照)。

また、条件付長期貸出制度(TLTROⅢ)の条件緩和適用期間を2022年6月まで延長すると共に、借入枠拡大、オペ回数追加などが公表されました。

 

どこに注目すべきか:PEPP、TLTROⅢ、期間延期、購入枠、APP

今回のECB政策理事会での追加金融緩和は、前回の理事会で実施が予告されていたこと、ECBのラガルド総裁らが講演などで金融政策の内容(PEPP主体)を示唆していたこともあり、市場の反応は限定的でした。あえて言えば小幅ながらユーロ高とドイツ国債利回りの上昇(価格は下落)が一時的に見られた背景を、政策の内容を振り返りながら考えます。

今日のヘッドライン11月27日号で12月の理事会で想定される金融政策について言及しました。当時の市場予想としてPEPPは21年12月迄延期、またその時点まで現在の購入ペースを続けるなら追加購入額は5000億ユーロ程度が見込まれると述べています。ただ、その後新型コロナの経済への影響などから市場では一部に22年6月迄の延期を見込む声もありました。

今回のPEPPの延期期間は中間となる22年3月であり、ある意味、市場予想の平均と言えそうです。しかし、追加購入額は5000億ユーロのままでは、購入ペースが(将来的に)減額するわけで、この点では緩和姿勢の後退とも見られます。また、声明文には拡大した緊急購入枠を必ずしも全額使うとは限らないとの「ただし書き」が付けられています。追加前の総額である1.35兆ユーロについてラガルド総裁は「使い切る」ことを前提としていましたが、今回は会見でもPEPPは上限であって使い切る必要はないとも述べています。購入姿勢後退の背景について、報道では、ECB内部で購入規模拡大に反対する声にも配慮したと伝えられています。

ただし、あえてタカ派(金融引締めを選好)の材料だけを今まで述べてきましたが、今回の「再調整」は全体的には金融緩和政策であることに変わりはないと見ています。例えば、ECBからユーロ圏の銀行への融資するスキームであるTLTROⅢは提供する有利な金利の引き下げ期間が21年半ばから22年半ばまで1年間延長されました。市場では半年程度の延期を見込んでいた点で、ハト派(金融緩和を選好)的と見られます。そのほか、緊急時の融資であるPELTROsの追加オペが盛り込まれ、既に借入限度に近づいた銀行への支援などきめ細かな対応が見られます。PEPPのような債券購入に比べ、融資の支援は、仕組みも複雑でわかりにくいことから、銀行にとっては有効な政策であっても、市場全般での注目度は低い印象もありますが、その役割は重要と思われます。

なお、債券購入政策には課題もあります。それは、主に債券を購入する資産購入プログラム(APP)とPEPPの役割分担です。PEPPはコロナの緊急対応で導入された一方、APPは平時の量的金融緩和と形式的には区分されます。APPは今後も現状ペースで購入が続けられることとなりました。一方、PEPPの期間の延長についてラガルド総裁は記者会見で、21年末までに集団免疫が達成されるとの見方を反映して決めたと説明しています。またPEPPは社債や、国債利回りなど現在の市場機能を維持するために行うとも述べています。ワクチンが広まるのに相当時間はかかるにせよ、今注目のPEPPからAPPへのスムーズなバトンタッチが求められそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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