Article Title
ラガルド総裁、国債利回りを注視と言うけれど
梅澤 利文
2021/02/24

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

今週はFRBのパウエル議長と共に欧州中央銀行(ECB)ラガルド総裁も議会で講演を行いました。パウエル議長の証言内容は概ね今日のヘッドライン2月22日号で紹介した通りで金融緩和の継続と、財政支援への期待で長期金利の上昇は景気回復確信の反映と述べています。一方、ラガルド総裁は講演で名目長期金利の動向を注視するとやや警戒感を示唆しました。



Article Body Text

ラガルド総裁欧州議会証言:長期の名目国債利回りを注視

欧州中央銀行(ECB)ラガルド総裁は2021年2月22日に欧州議会の行事で講演しました。ワクチン接種の開始など景気回復への期待を述べる一方で、ユーロ圏経済の現状は依然厳しく、引き続き金融、財政支援の必要性を強く支持しました。

なお、ラガルド総裁はユーロ圏の金融環境が新型コロナウイルスによる景気の落ち込みからの回復を支えるか否かを見極めるため、翌日物金利スワップ(OIS)レートと長期の名目国債利回りを注視していると述べています。

どこに注目すべきか:OIS、国債利回り、注視、NGEU(次世代EU)

今週は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長と共に欧州中央銀行(ECB)ラガルド総裁も議会で講演を行いました。パウエル議長の証言内容は概ね今日のヘッドライン2月22日号で紹介した通りで金融緩和の継続と、財政支援への期待で長期金利の上昇は景気回復確信の反映と述べています。一方、ラガルド総裁は講演で名目長期金利の動向を注視するとやや警戒感を示唆しました。

今回はラガルド総裁の欧州議会の講演における国債利回り注視発言と、経済支援策の2点について述べます。

まず、ラガルド総裁がOISレートや長期国債利回りを注視すると述べた点です。これらの水準が家計や企業に対する銀行貸出の参照レートとなるからで、この発言を受け、長期国債利回りは小幅ながら低下しました。

もっとも無理に国債利回りを押し下げるまでの意図はなかったように思われます。米国などに比べワクチン接種の遅れ、景気回復が鈍いユーロ圏でも、昨年年初の利回り水準に近づきつつあることにひと言述べただけの印象です。

次に、経済支援策についてラガルド総裁の講演の切り口は頭の整理に役立つと思われます。講演で回復は、パンデミック前の水準に戻る第1段階、潜在的な成長力を回復する第2段階に分けています。需要の蒸発によりもたらされた第1段階は主に各国の財政政策で穴埋めするとしています。

第2段階の成長軌道への回復は昨年7月の欧州連合(EU)首脳会議で合意された7500億ユーロ規模のいわゆる欧州復興基金(NGEU)が主役と述べています(図表1参照)。

ラガルド総裁はNGEUが中期的にユーロ圏の成長率を1.5%程度上昇させるとの試算結果を紹介しています。なお、NGEUの投資先はグリーン関連が37%、デジタル投資が20%と述べています。今後のユーロ圏の投資はこの2分野が主流です。

ラガルド総裁が講演で参照したECBのレポートにはNGEUの国別、時期別の主な資金配分の想定が示されています(図表2参照)。欧州復興基金(NGEU)の資金調達はEU名義で債券を発行し資金を各国に割り当てるためEU(ユーロ圏)共通債券により実施される運びです。なお、EUは発行する債券の3割程度をグリーンボンドとする計画とも伝えられています。

NGEUは1回限りといわれますが、資金の配分は複数年にわたり、長期的に投資を後押しする構えです。また配分は前半が厚くなっています。なお、ドイツやフランスは返済の必要がない補助金のみである一方、イタリアやスペインは融資の割合が多くなっています。投資の成果を見るのはこれからで、期待と不安のなか今後の展開を見守ることとなりそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが

2月の米雇用統計は波乱材料とならず