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ECB、戦略検証を受けたフォワードガイダンス変更
梅澤 利文
2021/07/27

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概要

欧州中央銀行(ECB)が今回の理事会で示した政策金利に関するフォワードガイダンスは、先日のECBの戦略検証で示された上下対称的な2%のインフレ率を目指すとの目標を反映しています。例えば、インフレ目標は2%未満から2%へと変更されました。なお、フォワードガイダンスには緩和姿勢を強めた表現も見られ、ECBのハト派(金融緩和を選好)姿勢が浮き彫りになりました。



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欧州中央銀行:8日の金融政策の戦略検証を反映しフォワードガイダンスを変更

欧州中央銀行(ECB)は2021年7月22日に開催した政策理事会で、金融政策の先行き方針(フォワードガイダンス)のうち政策金利に関連する部分のみを変更しました。

フォワードガイダンスの要旨は、インフレ率が①2%目標に予測期間終了のかなり前に到達し、②その後の予測期間においても、残る予測期間中も安定的にこれを維持すると予想され、③中期的に2%のインフレと整合する形で十分に進むと判断されるまで、政策金利が現状かそれよりも低い水準にとどまると予想する(①~③は筆者)、となっています。

どこに注目すべきか:戦略検証、フォワードガイダンス、貯蓄率

欧州中央銀行(ECB)が今回の理事会で示した政策金利に関するフォワードガイダンスは、先日のECBの戦略検証で示された上下対称的な2%のインフレ率を目指すとの目標を反映しています。例えば、インフレ目標は2%未満から2%へと変更されました。なお、フォワードガイダンスには緩和姿勢を強めた表現も見られ、ECBのハト派(金融緩和を選好)姿勢が浮き彫りになりました。

まず、上記のフォワードガイダンス要旨を整理し、政策金利の今後を占います。フォワードガイダンスの①では、予測期間終了のかなり前に、2%に到達することが政策金利変更の条件(の1つ)と説明されています。予測期間終了はECBスタッフが公表する経済予測を前提に、現在であれば23年末と見られます(図表1参照)。

なお、ラガルド総裁は会見で予測期間終了のかなり前とは予測期間の中間点と説明しました。概ね22年秋が該当すると思われます。図表1にあるように、22年のECBスタッフによるインフレ率予想は1.5%でインフレ目標には届かないことが見込まれています。

ただ、だからといって予測期間の中間点でたまたまインフレ率が2%と予想されただけでは利上げの条件を満たさないでしょう。②や③にあるように、残る予測期間中もインフレ率が安定的に維持されると予想され、さらに基調的インフレの動向が2%の目標と整合的と判断されることも求められているからです。一過性のインフレ率の上昇だけは、政策金利変更の条件にはなりえないと見て良さそうです。

ここでユーロ圏の足元6月のインフレ率は前年同月比で1.9%と、インフレ目標に迫る水準です。加えて、ユーロ圏の家計の貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄の割合)を見ると、今年1-3月期は約21.5%と高水準です(図表2参照)。新型コロナウイルスへの手厚い財政政策による支援や、サービス消費などの機会減少を受け、あたかも強制的にお金が貯蓄に回った(強制貯蓄)ことが貯蓄率急上昇の背景です。

仮に、この巨額の貯蓄が一気に消費に回ったら、許容できないインフレ率上昇のリスクがあると懸念する市場関係者も多く見られます。ワクチン接種の進展などに伴い、経済活動の制限が緩和されると消費が活発化することは見込まれます。ECBのモデルの想定では貯蓄率は緩やかにパンデミック前の状況に低下することが見込まれており、急速な貯蓄率の低下はメインシナリオではないようです。背景として、貯蓄の分布が消費性向の低い(お金があってもあまり使わない)高所得者に偏っている点を指摘しています。高所得者は貯蓄を投資に振り向ける動きを想定しています。また、巨額の財政政策の後だけに、今後の増税に備えて貯蓄を維持する動きも想定されています。ただし、新型コロナへの政策対応は過去に例の無い事例だけに予想の不確実性は他のケースと比較にならないほど大きく、今後の展開への注視の必要性も高そうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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