Article Title
最近の各国の金融政策の動向
梅澤 利文
2021/09/27

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

米連邦公開市場委員会(FOMC)前後に多くの国が金融政策決定会合を設定する傾向が見られます。米国の金融政策の影響が大きいことが意識されているのかもしれません。まとめて各国の金融政策を眺めると、インフレ率上昇への懸念や出口戦略を背景とした金融政策の正常化の動きが主流と見られます。



Article Body Text

金融政策:いち早く利上げに舵を切った一部新興国に続き先進国ノルウェーも利上げ

ノルウェー中央銀行は2021年9月21日に事前の予告どおり、政策金利を0.00%から0.25%に引き上げました。新型コロナウイルスの影響で多くの国が利下げを実施した後、先進国では初の利上げにとなりました(図表1参照)。

なお、新興国のブラジルやハンガリーは既に利上げに踏み切っていますが、今回も連続して利上げを実施しました。 

どこに注目すべきか:FOMC、インフレ率、利上げ、据置き

米連邦公開市場委員会(FOMC)前後に多くの国が金融政策決定会合を設定する傾向が見られます。米国の金融政策の影響が大きいことが意識されているのかもしれません。まとめて各国の金融政策を眺めると、インフレ率上昇への懸念や出口戦略を背景とした金融政策の正常化の動きが主流と見られます。

利上げを実施した国に共通するのはインフレ率の上昇です。消費者物価指数(CPI) で前年比の数字を見るとハンガリーは8月が4.9%、先進国で最初の利上げとなったノルウェーは同3.4%の上昇です(図表2参照)。ハンガリー、ノルウェーのインフレ目標はそれぞれ3%と2%で、8月の水準はこれを大幅に上回っています。

なお、ノルウェーのインフレ率は18年末に3.5%程度にまで上昇しました。ノルウェー中央銀行はそれに先んずる形で18年8月に利上げサイクルを開始しました。

ブラジルは9月のインフレ率(IPCA-15、拡大消費者物価指数、9月24日公表)が前年比で10%を上回りました。今年3月から利上げを開始し合計4.25%政策金利を引き上げましたがインフレ抑制には至っていません。ブラジル中銀は次回(10月27日予定)の会合でも同程度の利上げを示唆した一方で、利上げがいつまで続くのかについて明確な指針は見あたらず、今のところあいまいです。

次に今回据置きとした英国や南アフリカなどは将来の金融政の方向性が引締めであることを示唆しています。例えば英国は議事要旨でインフレ懸念に言及し、インフレ見通しとして4%を上回る可能性を指摘しています。ただ労働市場の回復については見方が分かれており、金融政策は足元据置きとなっています。しかし仮に引締めとなった場合、英国は、米国同様にまず量的金融緩和(QE)の縮小を開始すると思われます。今回の会合ではQEが維持されましたが、QE維持に反対(縮小)を表明するメンバーが増えています。

南アも据置ですが、原油価格上昇などを背景にインフレ率上昇が見込まれ、将来の引き締めを示唆しています。

なお、図表1で示した国の中で最も高いインフレ率の国はトルコで、8月のCPIは前年比19.25%と20%に迫る勢いです。ただトルコ中銀は市場予想に反し政策金利を引き下げました。トルコの金融政策には別の次元の解釈が求められそうです。

日本やインドネシアはインフレ率が低水準で推移しており、金融引締めにシフトする理由が乏しいように思えます。例えばインドネシアのCPIは8月は前年比で1.59%で、日本はマイナス圏です。両国とも当面据置きが想定されます。しかし、米国の利上げは、早ければ22年後半も視野に入り始めています。今はインフレ率が低い他の新興国も含め、今後は米利上げを意識した政策運営を迫られる国もありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが