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インド中銀、緊急会合による利上げの背景
梅澤 利文
2022/05/10

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概要

日本の連休中の注目イベントとして、5月3~4日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)がありましたが、インドでは予定外に金融政策会合が開催され利上げが決定されました。急速な米国金利の上昇に加え、サプライチェーンの混乱やロシアの軍事侵攻による物価動向の不確実性の高まりなどが、インド中銀に利上げ対応の前倒しを迫る結果になったと見ています。



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インド中銀:インフレ懸念を受け臨時の政策会合で利上げを決定

インド準備銀行(中央銀行)は2022年5月2日~4日に開催した臨時の金融政策決定会合で政策金利(レポ金利)を0.4%引き上げて4.4%にすることを決定しました(図表1参照)。利上げは18年8月以来3年9ヵ月ぶりです。

インド中銀が年初に公表した定例の会合予定では次回の開催は6月6日~8日としていましたが、インフレ懸念を受け、5月に臨時の会合を開催し、全会一致で利上げの即日実施を決定しました。なお、インド中銀は消費者物価指数(CPI)上昇率の中期目標を「2~6%」としていますが、3月のCPI速報値は前年同月比で6.95%でした(図表2参照)。

どこに注目すべきか:インド中銀、緊急会合、為替介入、追加利上げ

筆者は当レポートで、1ヵ月ほど前にインドを取り上げました。そこでは、インド中銀が比較的早い時期に利上げを決定する可能性を指摘しましたが、早くても次の定例会合である6月を想定していました。臨時の会合が開催されることは想定していませんでした。

しかしながら、インドの経済環境はロシアのウクライナに対する軍事侵攻や、コロナ禍への対応による財政悪化などにより急速に悪化しており、インド中銀は手遅れになる前に対応を迫られたと見ています。

インドの経済状況を振り返ると、インフレ懸念は深刻となっています。インド中銀は4月の会合において22/23年度(22年4月-23年3月)のインフレ率予想を5.7%に上方修正しました(従来は4.5%)。インドのCPIは1月から3ヵ月連続してインド中銀のインフレ目標の上限である6%を上回っています。その上、5月12日公表予定の4月CPIの市場予想は7%台とインフレ率のさらなる加速が見込まれています。じりじりと進行するルピー安に加え(図表1参照)、原油などの資源や食糧を輸入に依存するインドにとって、最近のエネルギーや小麦など食料品価格の上昇もインドの物価動向に痛手です。卸売物価指数は15%に迫る勢いです(図表2参照)。このような中、インドの経常収支は一時黒字に転じていましたが、再び赤字が拡大する動きとなっています。

別の懸念として財政収支の悪化があげられます。コロナ禍対応の結果、インド財政は悪化し、国債利回りの上昇が見られます(図表1参照)。もっとも、新規感染者数は一時に比べ大幅に減少しています。また、新規感染者数が足元増加傾向に転じてはいますが、インド当局は以前と異なり厳格な経済活動の制限は行わない模様で、この点はプラス要因と思われます。

これに対し、インド金融当局は遅れを認めるかのように、対応を繰り出しています。インド中銀は5月に緊急の会合を開催し利上げを開始しました。なお、インド中銀は声明で、政策スタンスは緩和的と述べていますが、これは解釈によっては必要なら追加利上げも辞さないことと思われます。

政策金利のみならず、他の市場にも当局は働きかけています。例えば、インド中銀は9日に、対ドルで最安値を更新したルピーを防衛するため外国為替市場でルピー買い介入したと報道されています。インド中銀が保有する約6000億ドル(約79兆円)の外貨準備で対抗する構えです。また真偽はわかりませんが、国債利回りを抑制するオペ(?)などの実施も噂されているようです。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻、コロナ禍対応による財政悪化、そして米国金利上昇などがインド中銀に金融引き締めを前倒しさせた格好です。筆者は、インド中銀が年度内に追加利上げを実施する可能性があると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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