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5月の中国の経済指標の光と影
梅澤 利文
2022/06/15

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概要

5月の中国の主要経済指標に底打ちの兆しが見られました。ゼロコロナ政策が徐々に解除されたことなどが回復要因と見られます。しかし、コロナの感染動向次第でゼロコロナ政策が再び導入される懸念が残るという不透明要因と、景気回復の内容にもいくつか疑問が残ります。当局は経済成長率の目標達成に向け課題が残されているように思われます。



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5月の中国主要経済統計:工業生産がプラスに転じるなど、緩やかながら改善の兆し

 中国国家統計局が2022年6月15日に発表した5月の主要経済統計によると、百貨店、スーパーの売り上げやインターネット販売を合計した社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同月比でマイナス6.7%と、前月のマイナス11.1%を上回りました(図表1参照)。

工業生産は前年比0.7%増と、市場予想のマイナス0.9%、前月のマイナス2.9%を上回りました。

固定資産投資は前年同期比6.2%増と、市場予想を上回ったものの、前月の6.8%増を下回りました(図表2参照)。

どこに注目すべきか:小売売上高、失業率、不動産投資、社会融資

 中国の5月分の主要経済指標が発表され、緩やかながら景気の底打ち感が見られました。景気の先行きを示唆する傾向がある製造業購買担当者景気指数(PMI)が既に回復を示唆していたこととも整合的です。背景として5月中には新型コロナウイルスの感染を防ぐ厳格な行動制限(ゼロコロナ政策)が一部緩和されたことがあげられます。

主な指標では、小売売上高は依然マイナス圏ながら前月を上回っています。ゼロコロナ政策が消費を抑制した面はあるものの、上昇(悪化)を続けていた調査失業率は5.9%とようやく改善に転じるなど明るい兆しも見られます。

工業生産は徐々に生産活動が再開されたことで持ち直しました。吉林省や上海市など自動車製造の集積地で操業が再開されました。自動車生産は4月に前年比でマイナス43.9%と生産活動の足を引っ張りましたが、5月はマイナス2.7%と依然マイナスながら前月から改善しました。もっとも製造業の活動を反映する発電量は4月に続き前年比マイナスで、全体的な回復には至っていないと見ています。

中国は6月から上海市の都市封鎖(ロックダウン)が解除の方向となるなど、今後の改善は期待されます。今回の主要経済指標にも改善点は見られますが、反対に気になる点も残されています。例えば、固定資産投資は、中国当局がてこ入れするインフラ投資は堅調ながら、不動産投資はマイナス7.8%と引き続き軟調です。当局は主に住宅投資に使われる5年物ローン・プライム・レートを引き下げるなどてこ入れ策を行っていますが回復には時間がかかりそうです。

中国の景気下支え政策を見るにあたり、金利と共に、融資など量も重要です。先日発表された中国の社会融資規模は5月が約2.8兆元と市場予想、前月を共に上回りました(図表3参照)。量は増えたのですが、内容に疑問が残ります。増加の主な主体は短期の企業融資と、政府債(約1兆元)に限られています。住宅ローンや企業の長期借入など民間の資金需要の回復が鈍いと見られます。6月からはロックダウン明けの回復は、ある程度想定されますが、自律的な回復には時間がかかるかもしれません。中国当局も経済成長目標の達成という課題があるものの、22年前半の低成長をカバーするような景気の回復を年後半に実現するのは、たやすいことでは無いように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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