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- プーチンの誤算?フィンランドとスウェーデン、NATO加盟へ
北欧ではこれまでロシアと、スカンジナビア半島の西側に位置するノルウェーの間に、中立政策を維持するスウェーデンとフィンランドが緩衝地帯となっていました。特にフィンランドはロシアと南北に約1300キロほど国境を接しています。その2カ国がNATOに正式加盟する動きが加速しました。ロシアのウクライナへの軍事侵攻はプーチン大統領の思わぬ方向に展開したようです。
NATO:フィンランドとスウェーデンの加盟に反対していたトルコが加盟支持に転じる
北大西洋条約機構(NATO)は2022年6月29日、マドリードで開いた首脳会議で、北欧のフィンランドとスウェーデンの加盟を認めることで合意しました。両国がNATOに加盟申請したのは5月18日ですが、加盟国のトルコが両国のNATO加盟に反対していたため加盟プロセスは停滞していました。しかしトルコが加盟支持に転じたことで、両国がNATOに加盟するにあたっての障害はほぼなくなったと見られます。
どこに注目すべきか:NATO、フィンランド、スウェーデン、中立国
最初に、NATOについて簡単に振り返ります。NATOの加盟国は現在30ヵ国です(図表1参照)。NATOが生まれた経緯は、第2次世界大戦後、世界がソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)を中心とした社会主義諸国(東側)と、欧米を中心とした資本主義諸国(西側)に分かれたことです。その分かれたそれぞれの軍事同盟として西側に「NATO」、東側には「ワルシャワ条約機構」が結成されました。もっとも、91年、ソ連崩壊と共に東側のワルシャワ条約機構は解体しました。
ソ連の後を受けたロシアは、当初NATO加盟に興味を示すなど、NATOに対し比較的中立的な立場と見られていました。しかしながら、「東側」の国々が徐々にNATO加盟する、いわゆる東方拡大などを受け、ロシアはNATOに警戒心を高めたようです。図表1にあるように、99年にポーランド・チェコ・ハンガリーが、2004年には身内と思っていたバルト3国などが正式にNATOに加盟しています。
ロシアがウクライナに軍事侵攻した本当の目的はわかりかねますが、NATOの東方拡大を懸念したと考えられそうです。そうであるならば、ロシアと国境を接するフィンランドと、それに続くスウェーデンのNATO加盟に向かわせてしまったのは報道などでも指摘されているように、ロシアのプーチン大統領にとって誤算と思われます。歴史的に中立政策を維持してきた両国はロシアとNATOの境界の緩衝地帯となっていましたが、これを一気に失うことと、軍事上重要なバルト海を囲む国がほぼNATO加盟国になるためです。
なお、両国の加盟にはNATO全30加盟国が加盟議定書に署名し、それぞれの国で批准手続きを完了する必要があるため、少なくとも数ヵ月は必要と見られています。プーチン大統領は不満を表明しているとも報道されています。正式加盟の前に両国が攻撃もしくは何らかの圧力を受ける可能性は、相手がプーチン大統領だけに予測することは極めて困難です。もっとも、政治動向を反映しやすい通貨市場でもスウェーデン・クローナ(フィンランドはユーロ)の動揺は限定的です。クローナはむしろ、30日に決定した利上げを見据えた動きとなっているようです。
では、両国がNATOに正式加盟するまでの安全は守られるのか?その形は出来ているようです。英国が5月11日にフィンランド、及びスウェーデンと安全保障宣言に署名しているからです。両国がNATOに正式に加盟する前、仮にロシアの攻撃を受けた場合、英国がロシアからの攻撃に対応することとなります。英国はNATOの原加盟国であることから英国が攻撃を受けた場合、集団的自衛権によりNATO全体でロシアの動きをけん制することが想定されます。もっとも、安全保障宣言は協定という位置づけで、法的、または自動的に安全保障が機能するわけではないようです。あくまで、両国からの要請があれば英国は支援に向かう宣言との位置づけです。それでも、NATO正式加盟前の空白期間への備えは進めてきたことがうかがえます。
外交といえば、トルコも有利にことを進めたように見えます。フィンランドとスウェーデンのNATO加盟に最後まで反対姿勢を貫きながら、トルコと敵対する非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)に関わる懸念に対応する覚書を結んでいます。トルコは外交上の成果を得たと見て良さそうです。
なお、日本の岸田総理はNATOの首脳会議に、日本の総理大臣として初めて出席しました。他にオーストラリア、韓国、ニュージーランドの首脳も初めて招待されました。今後日本がどのような形でNATOに対して存在感を示せるか、関心を持って見守る必要があると思われます。
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