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FOMC議事要旨に見る今後の注目点
梅澤 利文
2022/08/18

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概要

今回のFOMC議事要旨では、インフレ抑制姿勢は強調される一方で、インフレ(景気)を加熱も冷やしもしない中立金利に到達したことは示されています。この解釈を巡っては、利上げのピークは近く、次には下山を考えるのか、それとも単なる通過点に過ぎず、しばらく山頂付近に留まるということか判断に迷うところもあります。市場は固唾を呑んで今後の展開を見守っています。




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FOMC議事要旨:インフレ懸念を強調するも、景気への配慮もあり、市場の反応は限定的

米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年8月17日に、先月26~27日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨を公表しました。7月のFOMCでは2回連続となる0.75%の大幅利上げが決定されました。

議事要旨は引き続きインフレ抑制の必要性を強調している一方で、いずれは利上げペースを減速させる必要性で合意したことが示されています。したがって、議事要旨は今後の方向性を明確に示したとは言い難く、市場の反応も概ね限定的となりました(図表1参照)。

どこに注目すべきか:FOMC議事要旨、タカ派、市場の解釈、GDP

7月のFOMCを受けた市場の反応について補足すると、例えば米10年国債利回りは前日比では0.1%近く上昇していることから、タカ派(金融引締めを選好)姿勢の議事要旨が背景で利回りが上昇した、というコメントもありますが、昨日の米国債利回りは欧州時間に、恐らく英国のインフレ指標を受けた欧州債券利回りと共に上昇していました。インフレデータなどが利回り上昇の主な要因という面もありそうです。

今回の議事要旨のトーンはFOMCの声明文やFRBのパウエル議長の会見に沿ったものと見られます。賃金などを見ればインフレ懸念は根強いというタカ派的な側面を強調する一方で、政策金利のペースを緩めることが、どこかの時点で適切になる可能性が高いことが示唆されています。

もっとも、政策金利のペースを緩めるという表現の解釈を巡り市場では年末迄利上げしたら、その後は利下げに転じることを織り込む動きが見られました。この市場の動きに対しては複数のFOMC参加者から警告とも受け取れるコメントが出されています。例えば、米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、FOMC後の市場の反応について「市場の解釈に驚いた」と述べています。リッチモンド連銀のバーキン総裁などもインフレが明確に低下するまでは、利上げを継続することを支持するなど、早期の利下げを支持する声はないようです。

さすがに市場もFOMC後の国債利回り低下は見直されており、2年国債利回りは足元3.2%台と、7月のFOMC前の3%前後の水準を上回っています。もっとも、FOMC参加者が、この修正された市場の利回り水準を「適正」と考えるのか、それとも、まだ高い利回りを想定しているのか明確ではありません。さしあたり、8月25-27日に開催されるジャクソンホール会議(経済シンポジウム)がヒントを与えてくれるのかもしれません。

なお、議事要旨公表前に発表された7月の米小売売上高を見ると、前月比で0.0%と横ばいで個人消費の回復が鈍いようにも見えます(図表2参照)。しかしながら、自動車やガソリンを除いたベースでは前月比0.7%増とプラスを確保しています。6月半ばからガソリン価格が大幅に下落していることが小売売上高を抑えたためと見られ、実質的な消費に底堅い面も見られます。GDP(国内総生産)算出に使用されるコア小売売上高(除く飲食店、自動車、建材、ガソリンスタンド)は前月比0.8%増と比較的高水準でした。7月の小売売上高データを反映したアトランタ連銀が算出する7-9月期のGDP成長率予想は前期比年率1.6%増となっています。今後のデータ次第で最終的には上下する可能性はありますが、あくまで今のところはプラス成長です。米国は年前半がマイナス成長で形式的な景気後退となりました。しかし目先の深刻な景気後退懸念がやわらぐ可能性もある中で、9月FOMCを前に市場との対話が重みを増しそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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