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インドネシア中銀、サプライズ利上げの顛末
梅澤 利文
2022/08/24

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概要

先日利上げしたタイに続き、政策金利の据え置きを維持してきたインドネシアもインフレ圧力を受け政策金利を引き上げました。通貨ルピアの安定に懸念の兆しが見え始めただけに、想定より早かったものの利上げは必然的であったようにも思われます。なお、インドネシアは燃料価格を補助金で抑えていただけに、今後の価格動向を占ううえで、政治の動きにも注意が必要です。




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インドネシア中央銀行:金融引き締めに慎重であったインドネシアも方針転換

インドネシア中央銀行は2022年8月22、23両日の政策決定会合で、政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.25%引き上げ、3.75%にすることを決定しました(図表1参照)。

インドネシアの利上げは18年11月以来、3年9か月ぶりとなります。市場では大半が据え置きを予想していましたが、インドネシアの消費者物価指数(CPI)は7月が前年同月比で4.94%上昇しました(図表2参照)。インドネシア中銀は声明でインフレ率は同中銀の物価目標である3%±1%を今年、来年と上回り続ける可能性があることを指摘しています。

どこに注目すべきか:インドネシア、利上げ、補助金、予算案、総選挙

フィリピンやインドなどアジアの主要新興国(除中国)が利上げ局面に入っている一方で、これまで利上げに慎重であったインドネシア中央銀行が利上げに踏みきりました。市場では今回の会合では大半が据え置きを予想していたためサプライズ利上げとなりました。為替市場では通貨ルピアが利上げの発表を受けて大幅に上昇しましたが、足元では上昇分の半値戻しの展開となっており、ルピア上昇に持続性は見られませんでした。市場ではインドネシア中銀が年内利上げに転じるとみられていたことなどが背景と思われます。

なお、インドネシアは年内残り3会合の開催が予定されています。市場の年末の政策金利の水準予想は、従来の4%程度から、4.5%程度が見込まれています。イメージとして残りの会合での各0.25%の利上げを市場は見込んでいるようです。

声明によると、インドネシア中銀が利上げを決定した背景はインフレ率の上昇です。7月の総合CPIは前年比で4.94%上昇しました。なお、コアCPIは同2.86%で差異があるのは、コア指数に含まれない変動の大きい食料品(VF)が同11.47%上昇し、エネルギー価格や航空運賃などを含む管理価格(AP)が同6.51%と大幅に上昇したためです。

インドネシア経済が堅調なことも利上げを支持した可能性があります。5日に発表された4-6月期実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比で5.44%増と、1-3月期の5.01%増を上回っています。インドネシア中銀の声明でも、欧米や中国の景気悪化を認識しつつも、国内需要と輸出の改善を背景に堅調に推移するとの見通しが示されています。インドネシア中銀が実施した消費者マインド調査でも今後の堅調な推移が見込まれています。

利上げの別の要因として、インフレ見通しの悪化が考えられます。インドネシア中銀はインフレ率(総合CPI)が22年並びに23年になってもインフレ目標の上限4%を上回る状態が続く可能性があることを声明で指摘しているからです。

インドネシアの物価動向を考えるうえで変動要因となりそうなのが8月16日に発表された23年度予算案です。インドネシア当局は23年度の財政赤字対GDP比率を2.85%と22年度の同見通し3.9%から改善することを見込んでいます。この要因は様々ですが、影響が大きいと考えられるのは補助金の削減です。インドネシア当局はガソリンやディーゼル、電力の価格などを補助金で抑えてきました。格付け会社のレポートによると、価格抑制に使われた補助金額は22年が対GDP比で2.6%でしたが、23年は同比率を1.6%に下げる見込みです。インドネシア政府は補助金を減らし財政改革を進める一方で、インドネシア中銀も価格抑制を重視する格好で、タッグを組んでいるようにも見受けられます。ただ、24年2月に総選挙を控えるジョコ政権が忍耐強い財政運営を維持できるのかに注意を払う必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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