Article Title
中国、インフレ率低下にみる様々な事情
梅澤 利文
2022/09/12

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国の8月のインフレ指標は消費者物価、生産者物価の両指数が前年比2%台の上昇となりました。資源価格などの落ち着きを反映したと見られます。一方で、世界的なインフレ懸念が残る中、中国当局は景気の底割れは回避するとしても、強引に成長率を押し上げて、自らがインフレの種をまくことになるような過剰な景気対策は控えているようにも見受けられます。




Article Body Text

中国物価統計:CPI、PPIともに前月を下回り、特にPPIはCPIを下回る水準に低下した

中国国家統計局は2022年9月9日に8月の消費者物価指数(CPI)と、生産者物価指数(PPI)を発表しました。CPIは8月が前年同月比2.5%上昇となりました(図表1参照)。PPIは8月が前年比2.3%上昇と、前月の4.2%上昇から大幅に低下したことで、CPIの伸びを下回る結果となりました。

中国人民銀行(中央銀行)が9日に発表した社会融資規模(銀行や市場からの調達総額)の増減額は8月が2.43兆元と、前月の7561億元を上回りました。しかし、社会融資規模の残高変化率は前年同月比で10.5%と、7月の伸びを下回りました(図表3参照)。

どこに注目すべきか:中国CPI、PPI、サービス価格、ゼロコロナ政策

中国の8月のインフレ指標はCPI、PPI共に市場予想と前月を下回り、物価上昇に減速傾向が見られます。特にPPIがCPIを下回ったことで、仮にこの傾向が続くならば、価格転嫁を控えてきた企業などに朗報となる可能性も考えられます。欧米をはじめ世界の主な国々が高インフレで苦しむ中、中国のインフレ指標は良好にも見えますが、各物価指標の内容を見ると、課題も残されているようです。

まず、CPIは幅広い項目で上昇率の鈍化がみられます。例えばCPIを財とサービスに分類すると、財、サービス共に鈍化しました。なお、7月に前年比6.3%と上昇した食料品は今月は6.1%上昇と鈍化しました。ただ、豚肉価格が上昇に転じているのは気がかりで、今後の動向に注意は必要です。

コアCPIは8月が前年比0.8%と落ち着いています。インフレという点では安心材料にも見えます。しかし、先のサービス価格とコアCPI の伸びを年初来で各月ごとにみると、伸びが1%を下回ったのは4月と5月及び、7月と8月で、ゼロコロナ政策が強化されたとみられる時期に相当し影響がうかがえます。

米国では住居費がインフレを長期化させることが懸念されていますが、中国の住宅関連の項目をCPIで見ると8月は前年比0.6%と伸びが鈍化しています。不動産市場の悪化を反映したと見られることから、良いニュースとは言えないでしょう。

次に8月のPPIは前年比2.3%上昇と前月を大幅に下回り、前月比はマイナス1.2%でした。PPIが鈍化した背景は昨年同時期の資源価格がコロナ禍からの経済回復で急上昇したこと、中国国家発展改革委員会がガソリンとディーゼルの国内燃料価格をこの夏に複数回引き下げるとしたことなどが寄与したとみられ(図表2参照)、PPI鈍化には力技も見られます。

中国の景気動向を資金量の観点から社会融資規模で確認すると、9日に発表された8月分の残高変化率は前年比10.5%で、7月の10.7%を下回りました。景気下支えとして地方特別債の前倒し発行などを実施したインフラ投資もペースダウンの様子です。政治の季節を前にゼロコロナ政策の堅持が見込まれる中、中国当局の景気支援策は、物価下落は追い風ながら、過度な積極策は控えているようです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが