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10月の米雇用統計は強弱まちまち、金融政策の判断は時間を味方に
梅澤 利文
2022/11/07

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概要

10月の米雇用統計は強弱まちまちの内容で、利上げは当面続ける必要がある一方で、利上げペースの減速が想定されます。雇用統計後の米連邦準備制度理事会(FRB)の発言として、リッチモンド連銀のバーキン総裁が米政策金利は結果として5%を超えるかもしれないと述べていますが、これは時間を味方に利上げの終着点を見極める方針であると筆者は理解しています。




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10月米雇用統計:強弱まちまちのシグナルながら雇用市場に緩やかな減速感

米労働省が2022年11月4日に発表した10月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から26.1万人増と、市場予想の約20万人増を上回りました。9月の就業者数は26.3万人増から31.5万人増に上方修正されました。部門別では教育・医療や専門事業(事業支援)などでの伸びが目立ちました(図表1参照)。

失業率は3.7%と、市場予想の3.6%、9月の3.5%を上回りました(図表2参照)。10月の労働参加率は62.2%と、前月の62.3%から低下しました。

平均時給は前月比は0.4%増と、市場予想の0.3%増、前月の0.3%増を上回りました。一方で前年同月比では4.7%増と、市場予想には一致しましたが前月の5.0%増を下回りました(図表3参照)。

どこに注目すべきか:米雇用統計、強弱、失業率、賃金トラッカー

10月の米雇用統計の内容は強弱まちまちで、解釈も様々なものが見られます。ただし緩やかながら米雇用市場の減速感は浮き彫りとなっていると見ています。

雇用統計で最初に注目される就業者数は前月比26.1万人増と市場予想を上回ったこと、米国の人口増などから想定される適正水準を上回る点で雇用の強さが示されていたとみられます。しかし、就業者数の前月比平均を年次別に見ると21年は56.2万人増、22年は年初来で40.7万人増で雇用のペースに減速感も見られます。

就業者を部門別に見ても強弱が見られます。新型コロナウイルスが落ち着いてから就業者の伸びをけん引してきた娯楽・接客部門の伸びに陰りがみられる一方で、景気変動に対し安定的な教育・医療部門や専門事業は高水準の伸びを維持しています。なお、コロナ禍で採用が拡大した運輸・倉庫部門に落ち着きが見られます。

失業率は3.7%に悪化しました。依然低水準という見方がある一方で、前月からは悪化したという強弱まちまちな見方があります。一方で失業率の内容に注目すると、10月の上昇の背景は失業率データの元となる家計調査ベースの就業者数で、前月に比べ32.8万人減少しています。前出の就業者数は事業所調査では前月比26.1万人の増加でした。集計方法の違い、と言ってしまえばそれまでですが、強弱の違いはこのようなところにも見られます。教訓として、一つの指標ではなく、幅広く指標を眺めて判断することが重要と思われます。

賃金にも強弱が見られます。前月比は0.4%増と市場予想を上回った一方、前年比は市場予想通りでした。賃金の伸びの水準は依然高いとみられます。しかし、複数の賃金指標を並べた図表3で確認すると、賃金トラッカーなど複数の賃金指標の伸びに減速の兆しが見られます。

今回の雇用統計の金融政策への影響として、米雇用市場は依然強く、利上げは当面続けるとみられます。ただ、雇用の伸びは緩やかに鈍化しているため、今後の金融政策は時間を味方にする方針になると見ています。



梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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