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- ブラジル、インフレ率低下を素直に喜べない
ブラジルのインフレ率の低下が明確となってきました。利上げを先行して実施してきた効果が表れたという明るい面は見られます。しかしながら、エネルギー価格の引き下げなど人為的な押し下げ要因には課題も残ります。加えて、ブラジル中央銀行は財政政策の拡大に懸念を表明しており、今後の展開を注視する必要があります。
ブラジルIPCA:11月のインフレ率は市場予想を下回り5%台に低下
ブラジル地理統計院は2022年12月9日に11月の消費者物価指数(IPCA)を発表しました。前年同月比で5.9%上昇と、市場予想の約6.0%上昇、前月の6.47%上昇を下回りました(図表1参照)。これにより5ヵ月連続で前月の上昇率を下回ったこととなります。原油価格の低下や、燃料・電力にかかる商品流通サービス税(ICMS)の税率引き下げが、インフレ率の低下に寄与したと見られます。
なお、ブラジル中央銀行は12月7日に開催した金融政策決定会合で、市場予想通り政策金利を13.75%で据え置きました。政策金利の据え置きは3会合連続です。
どこに注目すべきか:ブラジル、インフレ率、利下げ、財政政策、憲法
ブラジルのインフレ率は現在の局面では22年4月に前年同月比で12.13%の上昇を記録したことから、11月のインフレ率は半減したこととなります。ブラジル中銀が先行して21年3月から利上げを開始した効果が表れ始めたとも見られます。
しかし、ブラジル中銀の22年のインフレ目標は3.5%を中心値に許容範囲を±1.5%としています。また23年は許容範囲はそのままで中心値を3.0%に引き下げる予定です。11月のインフレ率は22年のインフレ目標上限の5%を上回っています。市場もブラジル中銀の利下げは来年半ばを見ています。足元のインフレ率がインフレ目標の上限に近づいている点を踏まえると利下げ時期の前倒しも想定されそうですが、ブラジル国債市場を見ても利下げ前倒し期待は高まっておらず、またブラジル株式市場は11月になってから足元まで下落傾向です。
利下げ前倒し期待が高まらない背景としてインフレ率低下の持続性に不安があることが挙げられます。まず、短期的な要因として市場予想を下回ったのはブラジルのブラックフライデーでの想定外の値引きも一部にあったと見られます。
中期的な背景として、エネルギー価格の下落が挙げられます。ボルソナロ政権は燃料税の引き下げや、国営石油公社の人事に介入してガソリン価格を人為的に引き下げました。大統領選挙を意識した動きとみられ一応インフレ率の低下には寄与しました。ただエネルギー等を除いたコアインフレ率は高止まりしており、効果に疑問も残ります。利下げを開始できる水準にインフレ率が達するのは時間が必要と見られます。
次の理由は財政拡大懸念です。ブラジル中銀は7日の金融政策決定会合で高水準の政策金利を維持し、金融引き締め姿勢の継続を決定しました。その理由として財政拡大懸念を指摘しています。10月末のブラジル大統領決選投票で左派のルラ氏が当選しました。正式な就任は来年ですが、閣僚人事や予算案などにルラ政権の意向が反映されています。そのなかでも関心が高いのがブラジルの財政規律を維持してきた債務上限の緩和です。
ボルソナロ現政権の貧困対策を上回る手厚い貧困対策を目論むルラ次期政権は、歳出の伸び率を前年のインフレ率を下回る水準に抑えるよう求めた「歳出上限」の緩和により財源の確保を目指しています。この法案は先週賛成多数でブラジル上院を通過し、法案は下院に送られ今週議論されることとなっています。なお、歳出上限の変更は過去に何度も行われており、変更の有無だけが財政拡大の目安となりえないと思われます。上限の規模や、条件などが財政拡大の判断基準となりそうで、今後の展開を見守る必要があります。いずれにせよ、次期政権の人事の報道などを見ても、政策の方向性は市場の重荷となっているように思われます。
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