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日銀は現状維持を選択
梅澤 利文
2023/01/19

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概要

注目度の高かった17~18日の日銀の金融政策決定会合は金融政策を据え置きでした。事前の報道などで、昨年12月の会合における長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)修正に続く動きが想定されていたことなどが関心を高めたと見られます。しかし、日銀は金融引き締め転換を想定させる2会合連続での修正を回避し、当面のYCC安定化を重視する姿勢を維持しました。




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一部の修正観測に反し、日銀は金融政策を基本的に現状維持

日銀は2023年1月17~18日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和の継続を決定しました。短期金利をマイナス0.1%とするマイナス金利政策や、長期金利の上限を0.5%とする長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)など政策の大枠は維持されました。

一方で、金融機関に国債購入の原資を確保することで購入を促すことを意図して、共通担保資金供給オペを拡充することも発表しました。YCCの安定化を目指したものとみられます。

市場では最近の報道などもあり、一部でYCCの新たな修正に対する思惑もありましたが肩透かしとなり、日本の10年国債利回りは低下しました(図表1参照)。

YCC政策を安定させるため、共通担保資金供給オペを拡充

日銀の黒田東彦総裁は18日の会合後の記者会見で「長期金利の変動幅をさらに拡大する必要があるとは考えていない」と述べ、YCC政策を維持する考えを示しました。仮にYCCの再修正や撤廃となれば日本国債利回りは上昇していたことが想定されます。しかし国債利回りは低下しました。これは、据え置きということに加え、共通担保資金供給オペの拡充が背景と見られます。

共通担保資金供給オペは国債などの担保を差し入れた金融機関に日銀が資金を貸し付けるオペレーションで、既存の政策です。ただ、これまでの使われ方は0%の固定金利方式となっていたことから、期間も限定的でした。

日銀の資料によると、「年限ごとの国債の市場実勢相場を踏まえ、金融市場調節方針と整合的なイールドカーブの形成を促す観点から、貸付けのつど決定する利率」と柔軟化されました。日銀は、早速期間5年のオペ実施を公表しています。この柔軟化により、これまでの限定的な貸付期間(2年だった)の長期化が可能になると見られます。仮に資金供給を受けた金融機関が国債などを購入するなどすれば、イールドカーブのコントロールがより柔軟に行われる可能性も考えられます。これまでの運営では、指値オペ等で日銀が10年国債を購入していたため、市場機能のゆがみが生じていました。これが昨年12月に唐突にYCC政策の修正を行った背景でした。共通担保資金供給オペが日銀の思うように機能するならば、YCC政策を当面安定化させることも期待されます。黒田総裁が会見で「機動的な市場調節運営を続けることで、今後市場機能は改善していく」と自信を見せたのもわからないではありません。市場の金融政策変更催促が一旦小休止となることも考えられます。

金融政策変更の圧力は小休止となる可能性はあるが課題も残る

共通担保資金供給オペの新たな方針での運営については未知の面もあり、オペの頻度やレートなど今後の展開を見守る必要があります。

不安があるとすると次の点です。YCC政策が修正を迫られた理由の1つは市場が正しいと考える適正な10年国債利回り(フェアバリューと呼びます)とYCC政策で抑え込まれていたレートが異なっていたことが背景と思われます。当局と市場の認識に乖離が大きくなってきたのは日本でもインフレ懸念が高まったためと見られます。あくまで1つの例としてですが、気になる点を次にあげます。


日銀が発表した「経済・物価情勢の展望(2023 年1月)」によれば23年度のコア(除く生鮮食品)消費者物価指数(CPI)の中央値は平均で1.6%と、10月時点の予想から据え置かれました。昨年11月のコアCPIは前年同月比3.7%上昇し、1月20日に公表予定の12月分は市場予想が同4.0%上昇となっています。黒田総裁は会見で春闘における賃上げに期待を表明していました。それでも1%台半ばのインフレ率を23年度に予想するのは、相当の物価の低下を見込んでいると思われますが、市場のコンセンサスや筆者の支持する2%台半ばの予想と開きがあるように思われます。

日銀の低いインフレ率の見通しは現状の金融緩和政策と整合的ともいえますが、その前提には疑問も残ります。オペの拡充により、当面は市場の日銀に対する政策変更の催促は圧力が弱まることも考えられます。今回の共通担保資金供給オペ拡充に伴う金融政策の据え置きは、市場の圧力に屈して金融政策変更を迫られるというシナリオを回避した点で評価できると思われます。ただ、市場の思惑との違いは残されており、潜在的な混乱要因は解消されたとはいいがたいと思われます。

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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