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米雇用統計、雇用は強いが賃金の伸びは鈍化
梅澤 利文
2023/02/06

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概要

23年1月の米雇用統計は米雇用市場の強さが浮き彫りとなりました。失業率の歴史的な低下や、市場予想を大幅に上回る非農業部門の就業者数などに堅調さが見られます。一方で、平均時給の伸びがやや鈍化するなど解釈が難しい面もある中、先の米連邦公開市場委員会(FOMC)では若干金融引き締め色が薄められた印象もある中、今後の金融当局の発言に注目が集まりそうです。




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23年1月の米雇用統計は米雇用市場の強さが浮き彫りとなった

米労働省が2023年2月3日に発表した23年1月の米雇用統計によると、非農業部門の就業者数は前月から51.7万人増え、市場予想の18.8万人増、前月の26万人増(速報値の22.3万人増から上方修正)を大きく上回りました。部門別では、 娯楽・接客、教育・医療、人材派遣を含む専門事業などに伸びがみられました(図表1参照)。

また、1月の失業率は3.4%と、1969年5月以来の低水準となり、市場予想の3.6%、前月の3.5%を下回り米労働市場の堅調さが示されました。

1月の平均時給は前月比0.3%上昇と、市場予想に一致し、前月の0.4%上昇(速報値の0.3%上昇から上方修正)を下回りました。部門別では製造業や建設業などを含む財生産部門が底堅い一方で、サービス部門の平均時給の伸びは1月が前月比0.3%弱にとどまりました(図表2参照)。

非農業部門の就業者数の増加以外にも米労働市場の強さが見られる

今回の米雇用統計では非農業部門の就業者数が前月比51.7万人増となったうえに、過去2ヵ月分も合計7.1万人上方修正されています。失業率の低下と合わせ強さが示されました。今回の雇用統計では人口統計の年次改定などの影響や、ストライキに参加した大学職員の復帰により地方政府の雇用者は高めに出ている可能性はあります。

しかしながら、このようなテクニカルな要因を抜きにしても、米雇用市場の強さがうかがえます。

例えば、図表1の部門別の就業者数の前月比の変化を見ても、一部の部門に偏ることなく、製造業からサービス業まで幅広い部門に雇用の伸びが見られます。特に労働市場の先行指標として重視される人材派遣がプラスとなっています。

失業率は1月に3.4%と低下しましたが、注目したいのは労働参加率の上昇を伴って失業率が低下した点です(図表3参照)。ペースは緩慢ながら、労働市場に働く人が回帰したことによる失業率の低下である可能性が考えられるからです。

また、1月の週平均労働時間は34.7時間と急回復しました。雇用統計後に発表された米ISM非製造業景況指数は55.2と、前月の49.6から大幅に改善した動きとあわせて底堅さがうかがえます。

もっとも、1月は悪天候が理由で就業不能になった米労働者の数は約25万人と、過去の1月平均の半分程度にとどまりました。12月の寒波で米経済活動は停滞しましたが、今年になり悪天候の影響は改善したことが回復を通常以上に押し上げたのかもしれません。


それでも、仮に今回の雇用者数の伸びのような改善が当面持続するようであれば、米国経済に対する見通しには上方修正が求められそうです。

雇用の伸びは力強いが、平均時給などに賃金上昇圧力鈍化が見られる

ただし、平均時給は前月比で0.3%、前年同月比で4.4%の伸びとなり、依然高水準ながら伸び悩みとも見られます。例えば図表1と2で娯楽・接客部門を見ると、採用は増えているのに、平均時給の伸びは1月はほぼ横ばいとなっています。娯楽・接客部門の賃金は前月比で11月は0.8%、10月も0.6%と高い伸びであったことから、ある程度採用に問題ない水準にまで賃金が引き上げられた可能性などが考えられそうです。ただし、単月の動きで判断を下すのは時期尚早と見ています。

平均時給は製造業や建設業などを含む財生産部門が前月比0.4%の伸びとなったことが全体を支えました。これまで伸び率が低かった製造業で1月が0.3%となり、前月を上回った一方で、建設業などは0.5%と前月(0.6%)を下回っています。財生産部門全体が幅広く伸びを示したとは言い難いのかもしれません。

サービス業も、小売業や倉庫など賃金が加速する部門がある一方で、先の娯楽・接客以外にも専門事業、金融、情報技術など平均時給を抑え気味の部門も見られます。

賃金の伸びが鈍化する一方で、雇用の伸びが堅調であれば、長期的に見て労働市場の正常化に向けた動きとも考えられますが、そのように判断するには時間が必要と思われます。

そうした中、今週は米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長や、ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の講演などが予定されており、これらの講演で雇用統計に言及があるのかに注目しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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