Article Title
米2月CPI、インフレ動向に微妙な変化
梅澤 利文
2023/03/15

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

2月の米消費者物価指数は全体的にはインフレ鈍化が継続するも、減速のペースは緩やかでした。もっとも減速のペースが鈍いのは住居費が米国不動産市況の悪化を反映するのに時間がかかっている面もありますが、上昇傾向です。また、住居費を除いたサービス価格も緩やかながら上昇を持続しています。一方で、利上げの副作用も見られる中、金融当局にはぎりぎりの選択が求められそうです。




Article Body Text

2月の米消費者物価指数は減速が続くも、コアCPIはほぼ変わらず

米労働省は2023年3月14日に2月の消費者物価指数(CPI)を発表しました。前月比でCPIは2月が0.4%上昇と市場予想と一致し、前月の0.5%上昇を下回りました。変動の大きい項目を除いたコアCPIは0.5%上昇と市場予想並びに前月の0.4%上昇を上回りました(図表1参照)。

2月の米CPIは前年同月比で6.0%上昇と、市場予想と一致しました。前月は6.4%上昇となり、昨年6月の9.1%上昇をピークに8カ月連続で鈍化しています。一方でコアCPIは2月が前年同月比で5.5%上昇と、前月の5.6%上昇から小幅な減速にとどまっています。全体的にはインフレ鈍化と言えなくもありませんが、物価下落のペースは、これまでのところ緩やかなペースとなっています。

米2月のCPIはコアが上昇を維持するも、大半は住居費の上昇による

2月の米CPIは全体的にはインフレ鈍化傾向ながら、コアCPIの前月比の伸びは先月を上回りました。インフレ率は依然高水準で、利上げ継続も想定されますが、米地銀の破綻など利上げの副作用も懸念されます。このような時だからこそ、物価動向の内容を確認するこが大切であると考えます。そこで米CPIの前月比の変動要因を寄与度で振り返ります(図表2参照)。

CPIの構成をエネルギー、食料品、財、及びサービスの各項目に分類し寄与度を見ると、サービスは引き続き最大のプラス寄与項目で、寄与度では8割程度を占めています。

財項目の寄与度はほぼゼロです。衣料品などプラス寄与した項目がある一方で、テレビや中古車価格はマイナスでした。なお、足元で中古車の取引価格は上昇傾向で今後の展開に注目しています。

エネルギーは1月のプラス寄与から、2月はわずかですがマイナス寄与に転じました。

食料品価格は1月のプラス寄与から、2月は0.1%(0.05%)とほぼゼロに転じました。インフレ動向をみるうえで食料品やエネルギー価格を除いたコア指数が重視されますが、食料品などは生活に直結するだけに当局にとっても朗報と思われます。

やはり、最大の寄与項目はサービスで、その価格動向が米CPIを左右しています。そのうえ、サービス価格の大半は賃料や、持ち家を家賃換算した帰属家賃が主要な構成項目である住居費で占められています(図表3参照)。2月の住居費CPIは前月比で0.8%上昇と、1月の0.7%上昇から加速しています。ただし、賃料のうち、新規の賃貸契約のみで構成された賃料の指数はすでに下落傾向です。賃料全体の価格動向も下落が見込まれています。ピクテでは23年前半(おそらく4-6月期)に住居費はピークを迎えると見ています。

もっとも、実際に数字が下がるのを見るまでは市場からインフレ懸念が後退することはないのかもしれません。


他のサービス項目を見ると、医療サービスはマイナスとなっています。一方、運輸サービス、とりわけ公共運賃や航空チケットの価格は上昇しています。また、教育サービスも上昇していますが2月は前月比で0.1%上昇にとどまっています。

先週2月の米雇用統計が発表され、平均時給の伸びに鈍化がみられました。サービス部門の平均時給の伸びは前月比0.2%上昇と緩やかでした。単月の動向で判断はしかねますが、サービス価格のうち住居費以外の項目の中には上昇の勢いが失われているものもあるようです。今後の展開を見守る必要はありますがサービス価格の動向に変化の兆しが見られます。

2月の米CPIや地銀の破綻からFRBは引き締めペースを緩和する可能性も

金融政策への影響を考えるうえで重要な、住居費を除いたサービス・コアは前月比で1月の0.3%上昇から2月は0.4%上昇となりました。米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレへ警戒姿勢を維持する必要性はあると思われます。

しかしながら、引き締めの副作用にも配慮が求められる状況にも直面しています。そうした中、年後半には住居費の減速と、労働市場の緩和も見込まれることから、FRBはインフレ抑制は維持しつつも、利上げのアクセルを徐々に緩める展開が想定されます。次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げ幅を0.25%とするなど、議会証言での利上げ加速する用意との発言からは違った対応を想定しています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


インドネシア中銀、サプライズ利上げの理由と今後

4月のユーロ圏PMIの改善とECBの金融政策

米国経済成長の背景に移民流入、その相互関係

IMF世界経済見通し:短期的底堅さを喜べない訳

ベージュブックと最近のタカ派発言

中国1-3月期GDP、市場予想は上回ったが